魅力的なサービスを“実質無料”で 『Nintendo Music』に見た任天堂のブレない姿勢
任天堂は10月31日、Nintendo Switch Online加入者向けの新サービス『Nintendo Music』を発表し、即日でアプリの配信を開始した。 【画像】『Nintendo Music』のサービス内容を紹介している画像一覧 本稿では、『Nintendo Music』のサービス内容を踏まえたうえで、そこに込められた“任天堂らしさ”をさまざまな観点から紐解いていく。 ■人気タイトルのゲーム音楽が聴ける新サービス『Nintendo Music』 『Nintendo Music』は、任天堂が抱える人気タイトルのゲーム音楽が聴けるサービスだ。Nintendo Switchの有料オンラインサービス『Nintendo Switch Online』の加入者を対象に提供される。ユーザーは同名のモバイル向けアプリを自身の端末にインストールし、サービスへとログインすることで、さまざまなタイトルのサウンドトラックをストリーミングで楽しめる。配信開始時のラインアップは下記の22タイトルとなっている(※)。 『スーパーマリオ オデッセイ』 『マリオカート8 デラックス』 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 『スプラトゥーン3』 『あつまれ どうぶつの森』 『ピクミン4』 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』 『メトロイド』 『星のカービィ スターアライズ』 『スーパーマリオギャラクシー』 『メトロイドプライム』 『nintendogs』 『Wiiチャンネル』 『トモダチコレクション』 『ファイアーエムブレム 烈火の剣』 『ゼルダの伝説 時のオカリナ』 『スターフォックス64』 『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』 『スーパードンキーコング』 『ドクターマリオ』 『スーパーマリオブラザーズ』 『星のカービィ』 これまで任天堂は各タイトルのサウンドトラックをデジタル配信しておらず、ユーザーが(ゲームプレイ以外で)その音楽を聴くためには、別途発売されているCDを購入する必要があった。しかし、上記タイトルのなかには、入手方法が限定されていたり、希少性からプレミア価格がついていたりするものも存在していたため、実質的には思うように楽しめない状況となっていた。 また、同アプリには、「ネタバレ防止」や「ながさチェンジ」といった特徴的な機能も実装されている。前者では、「曲名によるプレイ前のネタバレを避けたい」というユーザー心理に配慮し、事前に設定しておくことで、さまざまな情報が伏せられる。再生時間を変更できる後者では、作業用BGMのような使い方にも対応する。このほか、プレイリストの作成機能も盛り込んだ。 『Nintendo Music』は、Android/iOS向けに配信中。価格は無料だが、利用にはNintendo Switch Online(月額306円~)への加入が必須となっている。 ※11月1日には『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が、11月5日には『スーパードンキーコング2』が追加となった。 ■展開を実現させた「IPの力×プラットフォーマーとしてのアドバンテージ」 事前の情報がまったくないなかで、突如リリースされた『Nintendo Music』。界隈の反応は、好意的なものばかりだ。その理由は、同サービスが実質的に無料で楽しめる点にある。『Nintendo Switch Online』は、Nintendo Switchのユーザーの多くが加入するものであるため、その利用のために追加で料金を支払う必要がないというわけだ。もとより任天堂作品のゲーム音楽はコンテンツとして強い力を持っており、リスニングできる環境には高い需要があった。魅力的なサービス内容を備えながら、実質無料で利用できる『Nintendo Music』が大絶賛で迎え入れられている状況は、ある意味で必然であったとも考えられる。 一方、この“コンテンツ拡充”によって、『Nintendo Switch Online』の価格は、さらに割安感が高まった。もともと競合のプラットフォーマーが展開するサブスクリプションにくらべ、リーズナブルであることに注目が集まっていた同サービスだが、内容に対しての価格という意味で、その差はより際立つ状況になったと言える。 参考までに他社サービスの価格を提示すると、PlayStationで展開される『PlayStation Plus』は月額850円~、Xboxで展開される『Xbox Game Pass Core』は月額842円で提供されている。両者のあいだには、500円以上の価格差がある。 ■真骨頂となったユーザー目線の施策。飛躍を支えるコミュニティとの関係性 任天堂は直近、自社IPの再利用に力を入れている。今年10月、京都府・宇治市で開業したゲーム博物館『ニンテンドーミュージアム』は、その最たる例だ。同施設には、任天堂が1889年の創業から現在に至るまでの135年の歴史のなかで発売してきた数々の商品と関連資料などが展示されている。その中心となるのはやはり、ファミリーコンピュータの登場以降、同社の主力商品となっていったゲームコンテンツたちだ。『Nintendo Music』もまた、こうした一連の動きのなかにある取り組みであると考えられる。 2024年11月6日に行われた2025年3月期・第2四半期の決算説明会/経営方針説明会では、2015年12月より登録を開始したニンテンドーアカウントの利用者が3億6,600万を超えたことに触れ、まもなくローンチされる予定のNintendo Switchの後継機種において、同アカウントを軸にしてサービスを展開していくことが明言された。「既存のコンテンツやサービスをうまく活用し、さらに強固なファンコミュニティを形成していく」。こうしたやり方は、任天堂によるユーザーの囲い込み戦略と言えるのではないだろうか。 ともすると、ネガティブなニュアンスを含む「囲い込み」という言葉だが、ファンたちはこれ以上ない顧客ロイヤルティをもって、任天堂の取り組みを受け入れている。この関係性こそが、ここ数年の同社の飛躍を支える、もっとも重要なパーツなのかもしれない。 上述の説明会では、Nintendo Switch後継機種が後方互換に対応する(Nintendo Switch向けのソフトも遊べる)ことを発表した任天堂。この発表もまた、界隈には好意的に受け止められた。ユーザー目線での施策は、同社の真骨頂となりつつある。『Nintendo Music』のリリースには、そのブレない姿勢をありありと感じさせられた。
結木千尋