笑顔になる備蓄ようかん 被災生徒の経験生かし開発 翠星高・食品科学研究会、奥能登3市町に贈る
翠星高の食品科学研究会は7日、開発した能登酒米甘酒羊羹(ようかん)「菊環羊羹」を、輪島、珠洲、能登の3市町に計3750本寄贈した。部長の上谷菊環(かみやきくわ)さん(3年)は昨年の元日、能登半島地震で倒壊した住宅に閉じ込められ、避難生活を送った。その経験を生かし、栄養価が高く、水分補給もできる甘味を考案した。上谷さんは「笑顔になれる備蓄食として活用してほしい」と願った。 ●輪島で閉じ込められ 上谷さんは昨年、輪島市町野町広江の父方の実家で被災した。家が崩れて閉じ込められ、父や兄、近所の人々によって約3時間後に母と共に救出された。町野地区は孤立していたため、近くの施設に4日間身を寄せたが備蓄食はなく、住民たちは持ち寄った食材で料理を作ってしのいだ。食で笑顔が戻った場面を見た上谷さんは「非常食を作りたい」と思い立った。 研究会では震災前から吉田酒造(白山市)と協力し、酒造りで出てくる酒米の削り粉の活用を考えていた。避難先で上谷さんは、食料がない上、トイレを我慢するため水の摂取すら避けている人を目の当たりにした。長期保存が可能で、酒米で作った栄養価が高い甘酒を練り込んだ、水気がある羊羹を作ろうと、研究会に提案した。 ●町野の酒米使い 昨年、製品化へクラウドファンディングを実施したところ、目標だった128万円を超える151万4千円の寄付が集まり、当初の計画を1千本上回る5千本を森八(金沢市)の協力で製造した。酒米は町野町の川原農産から取り寄せた。 上谷さんや谷正一校長、研究会顧問の安川三和教諭は7日、珠洲市健康増進センターと同市三崎中の仮設住宅団地、能登町役場、輪島市役所を巡って羊羹を寄付した。能登町役場では、大森凡世町長らが試食し、上谷さんが開発の経緯を説明した。1250本の寄付を受けた町は、仮設住宅などで活用する。穴水町にも2月に1250本を贈る。 自らの名前「菊環」を冠した1年間保存可能な羊羹について、上谷さんは「被災して暗い気分になっていた時、食事があるだけでほっとした。甘くて栄養がある羊羹が備蓄食となり、皆さんが笑顔になればうれしい」と話した。研究会は今後、評判を見て追加製造を検討する。