なぜハリスは負けたのか?【米大統領選2024を徹底分析】
女性大統領はやっぱり無理?
それどころか、トランプがハリスのことを「低脳」とか「クレイジー・カマラ」とか「コムラード(共産主義者)・カマラ」など、ひどいあだ名で呼んでも、むしろ多くの有権者にはアピールしたようだ。 トランプの発言は嘘だらけだったが、それはファクトチェック以上に、間違った解説や、人をおちょくったミームや、ディープフェイクを爆発的に増加させた。 トランプは「憎悪に満ちた選挙活動」をしているのはハリスだと断言し、21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件は「愛の日」だと語り、それが何百万人もの熱狂的な支持者に受け入れられた。 もちろん今回の大統領選でも、ロシアや中国、イランといった国々が偽情報をばらまいた。 しかしその影響工作は以前よりもはるかに巧妙になり、はるかに広く蔓延したため、アメリカのテック企業は取り締まりを諦め、自社が運営するプラットフォームがこうした工作の温床となることを許してしまった。それはトランプが権力の座に返り咲く絶好の環境をつくった。 一方、ハリス陣営は政治環境の変化をきちんと理解していなかった。ジャーナリストのファリード・ザカリアが10月にワシントン・ポスト紙で指摘したように、「世界最強の経済」は、バイデンとハリスに「良い結果をもたらしていない」。 それは「経済に代わって文化が有権者の投票行動に大きな影響を与えるようになったというアメリカ政治における地殻変動を示唆している」。 実際、バイデンもハリスも、良好な経済指標をテコに労働者階級の支持を取り戻そうとしたが、文化的な主張によってその多くを失うことになった。 公立学校の運動部でトランスジェンダーの生徒の試合出場を擁護したり、政治的な理由でアーティストや知識人の起用を取りやめたりする姿勢は、進歩主義的すぎると労働者階級にそっぽを向かれる原因となったのだ。 現時点では確たる証拠はまだないが、「女性大統領」が敬遠された可能性も十分ある。実際、選挙前の主要世論調査では、ハリスが女性から圧倒的支持を受けている一方で、男性の間ではトランプを支持する声がずっと大きかった。 トランプ陣営はその点をよく理解していて、若い白人男性に人気のインフルエンサーやコメディアンを動員して、進歩主義的な大義を強烈に皮肉った。ハリスが執拗に唱えるリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する女性の権利)も、彼らには響かなかった。 ハーバード大学ケネディ行政大学院政治研究所の調査によると、30歳以下の男性で、共和党支持者として有権者登録している人の割合は、4年前と比べて7ポイント上昇したが、民主党支持者として登録している人の割合は7ポイント減った。こうした政治環境で、トランプは白人以外の若者も取り込むことに成功した。 トランプは、「民主主義制度の信頼を傷つける主張にマッチョで挑戦的なメッセージを織り込む」ことで、若い男性の支持を獲得したのだと、同研究所のジョン・デラ・ボルペ調査部長は指摘している。 From Foreign Policy Magazine