なぜハリスは負けたのか?【米大統領選2024を徹底分析】
バイデンとの決別を示せず
ハリスはその後、ダメージの修復を試みた。CNNのインタビューでは、「(私の政権は)バイデン政権の続きにはならない」と語った。だが、既に手遅れだった。「よりによって(黒人で民主党寄りの)ホスティンが、ハリスの大統領候補としての息の根を止めるとはね」と、ミラーは語っている。 むしろハリスは、一貫して支持率が低いバイデンとの決別を打ち出さなければならなかった。なにしろ有権者の3分の2以上が「アメリカは間違った方向に進んでいる」と考えていたのだ。 バイデン本人と民主党指導部は、巨額のインフラ投資法や歴史的な気候変動対策、そして半導体業界を支援する「CHIPSおよび科学法」などの大型法案を成立させてきた実績から、バイデンの再選は確実だと思い込んでいた。 81歳という高齢や認知能力への不安がささやかれても、バイデンが撤退を拒否し続けた理由の1つは、いずれ有権者は自分がいかに実務能力に優れた大統領か気付くだろうと確信していたからだ。 実際、経済指標は良くなる一方のように見えた。ほぼ全てのエコノミストが驚いたことに、バイデン政権下で、アメリカは景気後退を回避した。これはジェローム・パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の手腕によるところが大きいが、23年の春から夏にかけて、物価上昇のペースも鈍化し始めた。 それでもバイデンの支持率が、40%周辺を突き破ることはなかった。党内の圧力を受けて、ハリスに大統領候補のバトンを渡した後もそうだった。 GDPや雇用統計は好調でも、物価上昇は依然として人々の暮らしに重くのしかかり、バイデン政権に対する評価はマイナスのままだった。それは副大統領であるハリスの選挙戦を最後まで厳しいものにした。 大統領候補として全米のスポットライトを浴び、自分を売り込む時間が3カ月しかなかったことも、ハリスにとっては大きなハンディとなった。これに対してトランプは、ある意味で8年間(大統領としての4年間と、下野してからの4年間)スポットライトを浴び続けてきた。 共和党予備選でフロリダ州のロン・デサンティス知事や、トランプ政権で国連大使を務めたニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事ら有力候補を大差で破り、自分はアメリカ史上最高の大統領の1人だったと豪語すれば、(たとえ嘘でも)メディアで大きく報じられた。 国内で激しい物価上昇に直面し、世界を見渡せば2つの戦争が同時進行するなか、コロナ禍前のトランプ政権は平和で経済的にも豊かだったと懐かしがる有権者は少なくなかった。そうやってトランプになびく流れは、ヘイリーのように党内で対立していた政治家さえもトランプの嘘をのみ、支持を表明したことで、一段と強くなっていった。 トランプの暴言や不正行為が、あまりにも次から次へと報じられるため、大衆の感覚が麻痺してきた側面もある。だから合計91件もの罪で起訴され、そのうち34件で有罪評決を受け、大統領としても2回弾劾され、女性をレイプしたことが裁判で認定されても、選挙におけるトランプの優勢は動かなかった。