「次の社長は創業家一族から出さない」/日本に明太子を生んだ企業、5代目社長の深い「博多愛」 ~ふくや後編
◆地元企業を経営支援するわけ、それは博多への愛
2017年にふくや本体の社長に就任した武浩氏は、持ち株会社「株式会社かわとし」を設立します。 傘下にあるグループ会社のおよそ半数は、経営状態が芳しくない地元企業を買収したもの。 福岡名産で有名なごま焼酎の「紅乙女酒造」では、経営の立て直しとともに、新商品の開発を後押し。博多を代表する菓子店「石村萬盛堂」も、支援を受ける会社のひとつです。 明治時代から続き、山笠の舞台でもある老舗企業を潰してはならないと、武浩氏が自ら経営のトップに就きました。 地元企業を支援するのは「会社や商品がなくなったとき、周辺のお客様が悲しむから」。 創業者の「社会貢献」という理念を色濃く継いだ選択だと言えるでしょう。 また「福岡は元気な街であると言い続けたいから」とも武浩氏は語ります。 独特の商品を売り出している焼酎蔵や、地元の老舗のお菓子屋さんが潰れてしまったら、「福岡=元気」というイメージが薄れてしまう。 福岡のブランドを維持するために、できることはやっていこう――それが武浩氏の想いです。
◆武浩氏の考える、6代目への事業承継
武浩氏は社長に就任して早々、「次の社長は創業家からは出さない」と宣言しました。 とはいえ、経営者として経験を積んだ今、その難しさをひしひしと感じているそう。 それは、プロパーから社長を出したり、プロ経営者に会社を任せたりするにしても、きちんと体制を作っておかなければならないからです。 「(経営は)パッと渡してうまくいくものでもない。譲ってみて失敗したら再登板という緊急時の選択肢も残すためことを考えると時間が足りない」と語ります。 5代目社長として挑戦を続けながら、自社のみならず、地元・福岡のことを想いながら社会貢献に取り組む武浩氏。 初代がつくりあげ、先代から引き継いだ会社のエッセンスを守りつつ、挑戦を怠らない――。長く愛され続ける会社のお手本と言えそうだ。
■株式会社ふくや
1948年10月、福岡市博多区中洲で創業。翌49年1月から、国内で初めて明太子の販売を開始する。「味の明太子」は博多明太子の先駆けとしてロングセラーに。2023年4月現在、従業員数579人(正社員268人)、2022年度の売上げ129億円。2002年には、第1回福岡県男女共同参画企業賞を受賞している。