バックオフィスこそが会社を変える
「戦略総務」と「管理総務」
――著書で書かれている「管理総務」のような人ですね。 ええ。自ら主体的に考え、会社を変えていく総務担当者を「戦略総務」、言われたことだけを粛々とやる総務担当者を「管理総務」と私は定義しました。「このボールペンを買ってくれ」と言われて、「わかりました、揃えておきます」と答えるのは管理総務ですが、「なぜこのボールペンが必要なのですか?」と問い直すのが戦略総務です。シャープペンシルじゃダメなのか、そもそも今、紙に書く必要があるのか、というところまで問い直す。ボールペンがほしい理由まで遡って聞き取っていくと、より良い方法へと変えられるヒントが得られることがある。マインドチェンジを厭わず、自ら考えて変えようとする姿勢が大切です。 ――それができる人は、どの部署でも通用しそうです。 総務を突き詰めると、経営者に行き当たりますからね。スタートアップ企業の社長は、総務も兼務しています。エビデンスがない中、リスクを取る判断を下して自ら会社を変えていく経営者と同じマインドが、総務には求められます。 ――会社の実態を最も把握しているのは、総務であると。 本来はそのはずです。総務の「総」とは総合業務管理だと私は考えています。すべてを司るという意味では、経営者と同じ。そう考えると楽しくなってきませんか?
「人への投資」に総務ができること
――総務部門における最大の課題は。 「人材確保」だと思います。人口減少社会である日本では、今後ますます労働力が不足するでしょう。人材確保は総務としても取り組むべき最重要課題です。人材確保には三つの段階があります。まずは社員になってもらえるかどうか。採用した後、定着してくれるかどうか。さらには実際に活躍してくれるかどうか。 コロナ禍を経て働き方が多様化した結果、働く場も複数の選択肢を提供する必要が出てきました。在宅勤務が可能だとか、サードプレイスを用意するとか、受け皿をいくつも揃えていなければ、多様な人材の確保は難しい。「この会社で働きたい」と思ってもらうためにも、時代の要請に応じた職場環境を整備することが重要です。 だから就職先として選ばれる上で、総務担当者の役割は非常に大きい。その意味で、現在の人材採用は人事の仕事である以上に、むしろ総務の仕事であるのかもしれません。 そしてオフィス環境の居心地の良さは、入ってきた社員を定着させるためにも重要です。ただ、社員が主観的に満足しているだけでは、会社の事業業績は上がりません。定着した社員が企業活動にいかに参画するかが重要になってくる。会社のビジョンや方向性を正しく理解し、納得した上で、主体的に取り組む気持ちを保ち続けられるかどうか。 人事部門でも社員のエンゲージメントを高めようと、リスキリングやリカレントといった教育投資を行いますが、どんなに質の高い教育を施されて能力が高まっても、実際に成果を出す場である職場環境が悪ければ、力を発揮できません。不毛の大地によい種を蒔いても、なかなか実はならない。生産性を高めるには、やはり働く場の改善が重要なのです。 人への投資は人事の仕事に見えて、実際には「場」が大きく影響してきます。経営者がテクノロジーツールの導入を検討するのは、そのためです。いま総務担当者が注力すべきは、場を磨き、事業に資するツールをうまく導入していくことだと思います。 (『中央公論』2024年8月号より抜粋) 構成:髙松夕佳 豊田健一(株式会社月刊総務代表取締役社長) 〔とよだけんいち〕 1965年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務を、株式会社魚力で総務課長を経験。『月刊総務』編集長を経て、株式会社月刊総務代表取締役社長。著書に『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』など。