秋元康による“四字熟語曲”、なぜ神曲多い? 櫻坂46筆頭に考えるタイトル含めたコンセプト作りの妙
秋元康が語る「タイトルを含めたコンセプト作り」が鍵に?
秋元は過去のインタビューで、「僕は『詩』ではなく『詞』をつくる流行歌の書き手ですから、タイトルを含めたコンセプト作りに重点を置きます」と語っている(※1)。千差万別なコンポーザーから持ち寄られた大量の楽曲群を、アーティストごとに振り分けながら各作品のテーマに沿って歌詞を紡いでいく。インタビューやラジオなどで秋元自身が明かしているように、いわゆる“曲先”という手法で歌詞を手掛けているとすると、歌詞が入っていない状態の楽曲、つまりオケとメロディのみの状態でアーティストとの親和性を掴んでいることになる。それを考えると、先述の通り櫻坂46の四字熟語曲が「マイナーコード主体のサウンド」で共通している、その傾向を読み取るヒントが見えてくる。 2020年10月の櫻坂46始動後にリリースされた秋元による四字熟語曲としては、NMB48のTeam BⅡの楽曲「青春念仏」、22/7からの派生ユニット・蛍光灯再生計画の楽曲「交換条件」、WHITE SCORPION「非常手段」などが挙げられ、そのどれもがマイナーコードでロックな仕上がりという点で、櫻坂46の四字熟語曲との共通項を見出すことができる。あくまでも歌詞のテーマは楽曲ごとに多種多様で、メジャーコードの四字熟語曲も一部存在するためすべてではないが、ひとつの傾向として読み取れるのではないだろうか。そして、そのなかでもシングル表題曲、アルバムリード曲に積極的に採用され、活動歴から見ても登場回数が多いことを考えると、櫻坂46のアーティストイメージと楽曲のメッセージを伝えるうえで「四字熟語とマイナーコード」という関係性は切っても切れないものであることは、少なくとも現時点で否定できないだろう。 ここで「自業自得」の歌詞を見ると、〈誰のせいでもない/決めたのは自分自身なんだ〉と言い聞かせ、〈いつか知らぬ間に/痛みになって返って来る〉と自問自答しながら「自業自得」な君に毅然と立ち向かう様子が描かれている。サウンドはやはりマイナーコードがベースで、サビの入りはDmをルートとした♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅰm→Ⅲの進行だが、その後♭Ⅵ→Ⅴ→ⅠでDに帰結し、主人公が抱く希望を託した響きを植えつけている。〈寂しさから逃げるな〉〈思い出より残酷だ〉といった冷酷とも取れるフレーズもあり、ここにも「自業自得」が伝えたいメッセージの強さが窺える。同じような意味を持つ言い回しに「身から出た錆」ということわざがあるが、やはりこのメッセージの強度を保ったまま届けるためには「自業自得」のほうがしっくりくるのだ。 そもそも四字熟語の定義のなかでも、昔から伝わる教訓や知識にかかわることわざを言い表す狭義の四字熟語として考えると、「自業自得」は単に漢字が4つ並んでいるだけではない「真の四字熟語曲」と言える。今後もきっと四字熟語曲が生まれていくはずだが、櫻坂46の楽曲において本稿でまとめた共通項が当てはまるのかどうかは気になるところ。新たな神曲に出会えるのが楽しみだ。 ※1:https://www.jasrac.or.jp/sakka/vol_3/akimoto_in.html
栄谷悠紀