「ニセ酒」撲滅運動から見えてくる中国の特権社会をウォッチャーが解説
それらのニセ酒は、インターネットを使った販売ルートが主流で、足がつきにくい。さらにネットやSNSで「政府機関の醸造所に特別なルートがある。だから『特別な酒』をあなたに提供できる」などと宣伝しているようだ。摘発しても摘発しても、イタチごっこのような状態が続いているという。 また、安い酒は人体に悪い影響を及ぼしかねない。対策として、食品や飲み物の品質を監督する官庁は、共産党や政府機関、さらに軍隊に向けて「特別供給酒」「内部供給酒」といった表示を含む酒の生産、販売を禁止しようとしている。これらは長く、それぞれの組織の資金獲得の源にもなってきた。特別な酒を一部、組織外にも売るという広告や商業宣伝活動に「禁止命令」を出すことを提案している。 ■限定酒でビジネスをしてきた特権階級を嫌う習近平政権 「特権を持った人たちだけが味わえる酒」にまつわるニセ酒の横行。そもそも、そんな特権があることがおかしい。習近平政権は、共産党や軍、それに政府機関からの腐敗撲滅、汚職追放に、熱心に取り組んでいる。習近平主席自身への権力を集中し、絶対服従を命じている。 一方で、特権を持つ人たちへの不満は、庶民の間には根強い。「特別供給酒」「内部供給酒」は、特別な地位を持ち、特権を享受する人たちと、庶民の乖離・距離を象徴するものだと言えるだろう。 同時に、特権階級がそんな酒を外部に売ってビジネスにもしてきた。共産党、軍、官庁は本来、そんなビジネスをするところではないはずだ。腐敗の温床にもなっているわけだし。質素倹約にも反する。だから、さまざまな組織が独自に持つ、いわばブランド酒、「特別供給酒」「内部供給酒」の製造をやめさせようとしている。 中国で特権を持つ人たち、また富裕層のメンツが生み出したようなニセ酒。日本円で200億円近い、荒稼ぎになったというから驚く。そこには珍しい酒を手に入れたいというメンツ。それに共産党や軍、中央官庁が、特別な酒でお金稼ぎをしてきたという背景もありそうだ。
■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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