「ニセ酒」撲滅運動から見えてくる中国の特権社会をウォッチャーが解説
私は中国に駐在していたころに何度かそれらを飲む機会があった。北京に人民大会堂という大きなホールがある。そこでの宴会で、人民大会堂の中だけで提供されるという触れ込みの酒が出された。また、中央の目が届きにくい地方へ行くと、一緒に食事する地方政府の高官から「これはあなたを歓迎するための特別な酒だ」と勧められたことがある。善意なのか、なにか思惑があるのか。こういう時は注意しないといけない。 日本でもレアものの高級ウイスキーに、市場価格をはるかに上回る値段が付いて、取り引きされているという。だけど、役所だけに流通している酒というのは聞かない。 中国でも、「レアもののお酒を飲んでみたい」、また「エリートだけが飲めるという酒を手に入れたい」という富裕層は少なくない。また、人間だれだって見栄を張りたいし、そういう酒を持っていたら、他人から羨ましがられるという心理が働く。ステータスや体面の問題かもしれない。 また、接待用に「このお酒は、ふつうは飲めないものです」「特別ルートで手にいれたのです」といえば、熱心さが伝わり、商談にも使える。酒の味がうまいかどうかは二の次なのだろう。そこに付け込んだ模造品、高級酒のニセ酒だ。 ■ラベルやケースは“立派なニセモノ”中身は粗悪品 実際に、ニセ酒ということで、ビンの中に入っているお酒はほとんどのケースで粗悪品だ。パッケージこそ、「人民解放軍〇〇部特別供給酒」とか「政府〇〇省内部供給酒」なんて、印刷された豪華なもので、ビンもそれらしい立派な陶器を使っている。ただし、中身は市販されている安い蒸留酒をそのまま。または何種類の蒸留酒を、混ぜてビンに注いでいるようだ。 中国公安省が発表した、ある摘発されたケースはこうだ。500CCあたり、日本円で200円ぐらいの安い酒を買う。これに、著名な酒造メーカーを騙ったニセのビンやニセのラベル、ニセのケース、ニセの専用紙袋を付けると、1本あたりの製造費は日本円で400円。つまりかかった費用は合わせて600円程度だが、これを「特別供給酒」「内部供給酒」として、日本円で8000円からその倍の1万6000円で販売していたという。暴利もいいところだ。