弥縫策を繰り返す規正法 「化かし合い」はもう勘弁 書く書く鹿じか
「役人の子はにぎにぎをよく覚え」。江戸時代にこんな川柳が流行した。 老中、田沼意次(おきつぐ)は幕府の財政を立て直すため、株仲間(幕府が認めた同業組合)を奨励し、貿易振興、蝦夷(えぞ)地開発などにも取り組んだ。商業経済は発展したが、一方で賄賂(わいろ)が横行して政治が乱れた。手を握ったり広げたりするのが「袖の下」を催促する合図で、冒頭の川柳はそれを赤ん坊の「にぎにぎ」に例えて風刺している。 天明の大飢饉(ききん)や浅間山の噴火など天災が相次いで、田沼が失脚すると、白河藩主の松平定信が老中になり、寛政の改革を断行した。「田や沼や濁れる御世をあらためて 清く澄ませ白河の水」と庶民は期待したが、やがて厳しい倹約令に息がつまり、「白河の清きに魚もすみかねて もとの濁りの田沼恋しき」の狂歌が詠まれた。 いつの時代も日本の政治はこの繰り返しである。ロッキード事件、リクルート事件、東京佐川急便事件など「政治とカネ」の問題が噴き出す度に、政治資金規正法が改正されたが、「水清ければ魚棲まず」とばかりに弥縫(びぼう)策でしかなかった。 今回の改正政治資金規正法も、ザル法のザルの目をちょっと細かくしただけだ。パーティー券購入者の公開基準額を「20万円超」から「5万円超」に引き下げたが、回数制限はないので、パーティーを何度も開催すればいい。 政治資金収支報告書の内容の「確認書」作成を国会議員に義務付け、確認が不十分だった場合は公民権停止となる。これを「いわゆる連座制」とするが、議員本人が会計責任者になればいいではないか。 政党から議員に支給される政策活動費は、使途の項目別金額と年月を政党の収支報告書に記載し、10年後に領収書を公開する。「10年後?もうおらんだろ上の方」というサラリーマン川柳を思い出して笑ってしまった。 これでは実効性も透明性も期待できない。せめて「第2の給与」と呼ばれ、月額100万円が支給される「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)にメスを入れてほしかった。ネット時代に「文書通信」はもう死語で、廃止すべきと思っていたら、「調査研究―」に名称を変えた。姑息である。何に使ったか領収書を提出し、未使用分は国庫に返納する。それがなぜできない。 岸田文雄首相は改革に熱心な日本維新の会の馬場伸幸代表と、立法措置を講じるとの合意文書を交わしたが、期日を明記していないからと、今国会は見送った。怒る維新に、「政治の世界ではだまされる方が悪い」と言った政治ジャーナリストがいる。
東京都知事選は「緑のタヌキ」(小池百合子氏)と「白いキツネ」(蓮舫氏)の一騎打ちの様相だが、化かし合いの政治はもうごめんだ。(元特別記者 鹿間孝一)