シリアルキラーとデート番組でご対面⁈ 実話を基にしたサスペンススリラー「アイズ・オン・ユー」
時系列の入れ替えが、シリアルキラーの異常性を際立たせる
71年から79年までを描く本作では、ロドニーとターゲットたちとのエピソードの時系列が入れ替えられている。そうすることで、ロドニーの不気味な不変性が浮き彫りに。彼は見た目や犯罪の手口、言動において、時間や経験の積み重ね、他者の影響による成長や変化がまったくない。広いアメリカをさまよい、ターゲットを見つけたら加害し、また別の街へと移動するその姿は、人間というよりも飢え(本能)に忠実に行動する獣と言ったほうがいいだろう。 だが、ロドニーには天性の知恵もある。女性に警戒心を抱かせない雰囲気と柔らかい物腰でターゲットに接近し、教養と知性を感じさせる雑談力で魅了してから毒牙にかける。コスタリカ出身のダニエル・ゾバットが、モテ男の条件を備えたシリアルキラーをつくりあげた。
女性たちが感じる恐怖を、なかったことにする社会を批判
シェリルはデート番組で出会ったロドニーに恐怖を味わわされることになるのだが、観覧席にいたローラという女性が悲劇を食い止めようと奔走する。彼女は数年前に、友人のアリソンを何者かに殺されていた。ロドニーを見て、アリソンが最後に一緒にいた行きずりの男と同一人物だと確信したのだ。 恐怖に震えながらもやるべきことをやり遂げようとする彼女は、同行していたボーイフレンドやテレビ局の関係者らに必死に訴えかける。だが、男たちは誰一人として彼女の恐怖や問題の大きさをわかろうともせずに軽く扱い、彼女はそのことに打ちひしがれる。 この作品で最も秀でている点に、ロドニーがターゲットに襲いかかる瞬間のショットがある。大自然の中で、アパートの中で、女性たちは若干の期待と興奮を感じながらロドニーと親密な距離を取っている。そしてロドニーが犯行に及ぶ瞬間に、引きのカットに切り替わる。フレームの奥で小さな人影がロドニーに対してあらがっていて、その声は我々に届かない。上げた声をないことにされたときの、ローラの絶望がそのショットに重なった。 鑑賞後、脳内にこびりつくのは「誰が私を傷つける?」というフレーズだ。これは、バチェロレッテとして3人に何を質問すべきか悩んでいるシェリルに、ヘアメークのベテラン女性がささやいた一言だ。このシンプルな問いかけは、この世界で私たち一人一人が、自分を守る盾になるはずだ。 Netflix映画「アイズ・オン・ユー」は独占配信中。
映画ライター 須永貴子