「皆、どうしてますか?」は愚問 保険会社が“売りたい保険”に要注意
「社内では、保険をよく知っている人ほど、あまり(保険には)入っていない。特に『医療保険』なんかには入らない。安い『団体保険』で定年までの死亡保障を持つくらいです。あなた(筆者のことです)がいろんな媒体で書かれているとおりですよ」 【連載】元保険営業マンが今だから話せる「保険の真実」 これは、ある生命保険会社の管理職の方が語った言葉です。読者の皆さまは意外に感じられるかもしれません。しかし、保険会社で働く人たちが入る保険と、一般向けに販売されている保険がかなり違うのは、今に始まったことではありません。(解説:オフィス・バトン「保険相談室」 後田亨)
保険会社の人が買いたがらない商品を一般の人は買っている
私は1995年に保険業界に転職し、大手生保と複数の保険会社の商品を扱う代理店で約15年間、営業の仕事をしていました。代理店在籍時に出版の機会に恵まれたことから独立し、近年は保険に関する執筆・講演、それから保険相談を有料で行うことで生計を立てています。販売の仕事から離れ、情報発信を続けているのは、保険会社の人たちと一般の消費者の知見の差を埋めたいからです。消費者が安心を求めて「メーカーや販売店の人は買いたがらない商品」を買っているような状況を変えたいと思っているのです。 消費者は、保険会社が発信する情報に右往左往しているように感じます。かく言う私も、長い間、営業部門における教育や、ファイナンシャルプランナーなどが各種媒体で発信する情報に影響されてきました。 「保障が65歳くらいで切れる保険は役に立たない。医療保険などは終身型に限る」「更新時に保険料が値上がりする保険はダメだ」「一生涯の死亡保障があり、解約時にもまとまった額のお金が払い戻しされる『終身保険』こそ、お客様が損をしない最高の保険」などと認識していた時期もあるのです。 しかし、よさそうに思えるこれらの保険のいずれも保険料負担がかさみ、大切なお金を失いやすい考え方だと気がついたのは、近年になってからでした。
ついつい質問しがちな「皆、どうしていますか?」
本連載では、私自身が重ねてきた「間違い」の数々を取り上げ、原因を明らかにし、解決策を提示していきます。これを読んでいただければきっと冒頭に紹介した保険会社の人たちの加入法が正しいと理解できるようになるはずです。第1回目の本稿では、会社員だった20代の私が、初めて自分の判断で保険に加入することにした時、営業の女性に発した質問を例にします。 「保険のことは、よくわからないんですけど、皆、どうしていますか? 皆、入っているんですよね?」というものです。 我ながら愚かだったと思います。まず「皆」というのは、職場の同僚たちなどを指していますが、言うまでもなく、彼らは保険の素人です。したがって皆の真似をするのは、やめておいたほうが無難なはずです。 また、保険会社の営業は、お客さんにとって不必要な保険でも最大限加入してもらえるとありがたい立場ですから、あらかじめ「利益相反」の関係にあるのです。ですから「皆さん、お入りになっています!」と回答するのは当然で、聞くだけ無駄と考えられます。なぜ、これほど簡単なことに思いが至らなかったのだろう、とあきれるくらいです。 実は「皆、どうしていますか?」は、後に私が保険業界に転職して以来、今日まで、最も多くお客様から聞いた気がする質問です。理由はわかりやすいと思います。誰にとっても、自分や家族に降りかかる不測の事態を想像し、不安とお金の問題と向き合うことは、苦痛なのです。そのため、居心地の悪さに耐えられず、性急に安易な着地点を求めてしまうのだと思います。 人が必ずしも合理的な行動をしないことを、研究のテーマにしている「行動経済学」でいう「選好の逆転」です。「正しく考える」ことが大切なはずなのに、いつのまにか「考えることから解放される」ことが優先されているのです。