両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.28
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
夢の日本館総本部建設
チェロキー通りに道場を移転してから5年ほど経った1990年代、日本館の道場があった地域は、「ゴールデントライアングル(金の三角地帯)」として注目され、マンションブームで地価が高騰した。 道場建物のオーナーであったアルメニア人は、地価高騰による大儲けをもくろみ、日本館の追い出しにかかった。道場建物リース契約の更新が打ち切られ、本間はその建物から出て行かねばならない事態となったのだ。 本間はその道場建物を買収しようとしたが、アルメニア人は一切交渉に応じない。そればかりか賃貸契約の切れた翌月はそれまでの2倍となる3000ドルの家賃を請求してきた。 その次の月はさらに2倍の6000ドル、そして3カ月後はさらにその2倍の1万2000ドルの請求をするという、信じがたい強引な値上げであった。快進撃を続けてきた本間であるが、とても払い続けることは出来ない。昔から「アルメニア人は商才に長けている」というのが、斯界の常識なのだ。 しかし本間はこの時、「ピンチはチャンス」と考えた。渡米以来温めてきた夢の城を建設しようと決意したのだ。合気道大道場、居酒屋風日本レストラン、日本庭園(野外レストラン)、日本伝統民具展示舘からなる日本館総本部の建設だ。だがこの男のロマンの城を建設するには、多額の資金が必要である。しかし本間にはそんな潤沢な資金などない。ではどうするのか。