対北朝鮮ビラ・汚物風船・拡声器の悪循環…軍事境界線付近で軍事衝突の懸念高まる
北朝鮮に対する拡声器放送、前線全域へと拡大 専門家「拡声器拡大、比例性は合理的なのか」 「衝突の火種」、対北朝鮮ビラを規制すべきとの声も
先月9日に6年ぶりに部分再開された北朝鮮に対する拡声器放送が、わずか45日で前線全域へと拡大した。韓国の民間団体の北朝鮮に対するビラ散布と北朝鮮の汚物風船飛ばしが繰り返される悪循環の中、韓国軍の対応が急激に強まることで、軍事境界線に接する地域での軍事衝突の懸念も高まってきた。 合同参謀本部(合参)は21日、「集中豪雨によって韓国国民だけでなく北朝鮮住民にも甚大な被害が出ている状況にもかかわらず、北朝鮮軍は低レベルで稚拙な行為を繰り返している」とし、「午後1時から北朝鮮に対する拡声器放送を前線全域で全面実施する」と明らかにした。北朝鮮は、韓国の脱北民団体である自由北韓運動連合の北朝鮮に対するビラ散布に対応するとして、5月28日からこの日までに計9回にわたり韓国に向けて汚物風船を飛ばしている。 この日から合参は、前方地域に保有している固定式24台と移動式16台の計40台の拡声器を、全面稼動体制へと変更した。北朝鮮の対南汚物風船に対応して先月9日に2時間にわたる拡声器放送をもって北朝鮮に対する心理戦放送を再開し、今月18日には「一部の拡声器による毎日10時間の放送」へと対応を強めていたが、この日「すべての拡声器の稼動」へと引き上げた。軍は、午前6時から午後10時の間の必要な時間に、随所で拡声器放送を行うという方式で、北朝鮮に対する心理戦を展開する。 2018年の9・19南北軍事合意以降で、北朝鮮に対する拡声器放送が全面実施されたのはこの日が初めて。拡声器放送は朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代の1963年に始まり、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2004年の南北軍事合意によって中断された。その後、李明博(イ・ミョンバク)政権と朴槿恵(パク・クネ)政権の時代に、天安(チョナン)艦襲撃事件(2010年)、木箱地雷事件(2015年)、北朝鮮の4回目の核実験(2016年)など、北朝鮮の武力示威に対する対応措置として一時的に再開されている。 拡声器放送は、北朝鮮に対する心理戦放送「自由の声」を再放送する方式。金氏一家の3代世襲批判や資本主義体制の宣伝など、北朝鮮が敏感なものと考えている内容だ。19日には、昨年11月に韓国に亡命した北朝鮮のリ・イルギュ在キューバ参事官のニュースや、反動思想文化排撃法が施行されたことで北朝鮮では聴くだけで処罰される韓国の大衆歌謡などが放送された。 北朝鮮が敏感に反応する拡声器放送が全面実施されたことで、南北の衝突が発生する恐れが高まっている。2015年の北朝鮮の木箱地雷で2人の韓国兵が大けがをし、政府が拡声器放送を再開した際には、北朝鮮が西部戦線で砲撃を加えている。 韓国の民間団体による対北朝鮮ビラ散布に反発して北朝鮮が飛ばしてくる汚物風船に軍が拡声器で対応するのは比例的でない、と指摘する声があがっている。統一研究院のホン・ミン先任研究委員は、「拡声器放送を単発性、終日放送、定期放送へと拡大していくことが、汚物風船への対応として比例性が合理的なのかは疑問」だと語った。南北が対応のレベルで競争するのではなく、対北朝鮮ビラの規制こそ必要だとの指摘もある。北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は、「対北朝鮮ビラ散布が中止されれば汚物風船も来なくなるだろうし、そうなれば拡声器放送も必要なくなるだろう」とし、「政府当局は対北朝鮮ビラ散布に手を貸すのではなく、積極的に規制すべきだ」と述べた。 シン・ヒョンチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )