米独禁当局、NVIDIAやMSなどAI企業を調査
米国で反トラスト法(独占禁止法)を所管する米司法省と米連邦取引委員会(FTC)が、米国のAI(人工知能)企業3社を調査する準備を進めていると、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)や米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などが報じた。米当局は、雇用や情報、人々の生活を一変させる可能性のある技術に対する監視を強めている。 ■ FTC委員長「初期段階で潜在的な問題を見つける」 調査対象となるのは、米エヌビディア(NVIDIA)、米マイクロソフト(Microsoft、MS)、米オープンAI(OpenAI)である。司法省とFTCは協議の末、役割分担に関する合意に達した。 情報筋によると、司法省はAI用半導体を手がけるエヌビディアの調査を主導する。一方、FTCは対話型AI「Chat(チャット)GPT」を開発するオープンAIと、同社に計130億ドル(約2兆円)を出資し、他のAIスタートアップにも出資するマイクロソフトの調査を主導する。 両当局は2019年に同様の合意に達した後、米グーグル、米アップル、米アマゾン・ドット・コム、米メタを調査し、それぞれに反トラスト法違反があるとして訴訟を提起した。一方、エヌビディアやマイクロソフト、オープンAIはこれまで調査対象から外れていた。しかし、22年末に人間そっくりのテキストや音声、画像・動画までも生成できるAIが登場して需要が急増すると、状況は一変した。 NYTによると、FTCのリナ・カーン委員長は24年2月のインタビューで、「問題が深刻化し、困難になる数年後ではなく、初期段階で潜在的な問題を見つける必要がある」と強調した。
■ エヌビディアの「市場独占」 3社はAIブームの恩恵を最も受ける企業として注目を集めるものの、その市場優位性に疑問が投げかけられている。 みずほ証券の分析によると、オープンAIの「GPT」のようなAIモデルに使われる半導体の市場で、エヌビディアは70~95%のシェアを持つ。同社の強力な価格決定力を裏づけるのは、78%という高い売上高総利益率(粗利益率)だと指摘されている。 最近はエヌビディアの市場支配力について様々な意見が聞かれるようになった。NYTによると、そのうちの1つは「ロックイン」と呼ばれる。ソフトウエアによって、顧客を自社の半導体に縛りつけ、競合他社への移行を困難にするというものだ。エヌビディアが顧客への半導体供給を制限したり、不当な価格で販売したりしているといった懸念もあるという。 ■ マイクロソフトの「実質的な買収」 マイクロソフトについては、AIスタートアップへの出資に問題があるのではないかと指摘されている。NYTによれば、マイクロソフトはオープンAIへの出資比率を49%にとどめることで、反トラスト法調査の回避を狙っている可能性があるという。 WSJによれば、FTCはマイクロソフトとAIスタートアップの米インフレクションAI(Inflection AI)が締結した6億5000万ドル(約1010億円)のライセンス契約を調査している。マイクロソフトは24年3月、インフレクションAIのCEO(最高経営責任者)であるムスタファ・スレイマン氏を採用し、新設するAI製品研究部門の責任者にすると発表した。 WSJによると、マイクロソフトはスレイマン氏に加え、インフレクションAIのほぼすべての主要幹部を引き抜く形で取引を成立させた。企業は1億1900万ドル(約185億円)を超える買収案件を反トラスト法当局に報告しなければならないが、インフレクションAIとの取引は買収には当たらないので、その必要はない。だが、この取引は実質的な買収だと指摘されている。マイクロソフトは、当局による買収審査を回避する仕組みを意図的に作り出したのではないかと疑われている。
小久保 重信