〝パイロットは大谷翔平ぐらい尊い〟重い責任と厳しい勤務環境、精神科医から見る睡眠と飲酒管理の重要性
パイロットは大谷翔平から体調管理を学べ
パイロットがモデルとすべきは、大谷翔平である。たとえば、アルコールである。南部杜氏の地岩手で生まれ育った大谷翔平は、酒が飲めない体質ではないと言われている。しかし、ほとんど飲まない。 それは、アルコールが睡眠の質を損なうことを熟知しているからである。ラーズ・ヌートバー(カージナルス)が大谷翔平を食事に誘ったところ、「寝るからだめ」と断られたという有名な逸話もある。
パイロットは大谷翔平より勝る部分もある仕事である。人の命に関わる。大谷は関わらない。もちろん、大谷が結婚を発表した時に、死にたくなった女性たちは多数いたであろうが、実際に死者が出たとは聞かない。大谷はその意味で生死にかかわる仕事ではない。生死にかかわらない大谷がこんなにも体調管理に気をつけているのだから、生死にかかわるパイロットは大谷の数倍、数十倍の努力は必要であろう。 大谷は、副操縦士の年齢であって、機長の年齢ではない。時差があるといっても、3~4時間であろう。移動による時差以上に、デイゲームとナイトゲームとの差異の方が応えるかもしれないが、それでも時差はたかが知れている。 パイロットのなかでも機長クラスは、大谷よりも年配であり、結果として、サーカディアンリズムの乱れに脆弱である。その一方で、時差は大谷よりもはるかに大きい。責任の重大さもまたしかりである。機長は、大谷以上の厳しい体調管理を自らに課さねばならないはずである。 メンタル面に不安を感じたら、まずは、休日前夜を除いて、飲酒をやめる。それでも依然としてメンタル面の不安が消えないならどうするか。ここは、酒より仕事を取るべきであろう。ベテラン機長にとって、引退の日は近づいている。酒は引退してから存分に楽しめばよく、現役中は酒を断つべきであろう。
トレーナーとしての医師
今後は、睡眠とアルコールに関して、強い介入を行うことのできる専門家を、個人で雇って、トレーナー役を務めてもらう方法もあろう。もちろん、健康保険外である。それは医療ではないからである。 大谷もコーチをつけている。コーチは、大谷より野球が下手なはずだが、それでも客観的な立場から助言することはできる。睡眠・アルコール・運動、そんな当たり前のことは、パイロットは百も承知である。しかし、いったん出来上がった悪しき習慣からは、容易に抜け出せない。ここは、専門知識を持ち、しかも、社外にあって独立した立場の者が諫言役を務めることには意義があると思われる。
井原 裕