倒壊した家屋から眺めた星空…3.11の記憶をつなぐプラネタリウム 被災地の天文台職員が制作
2011年3月11日、東日本大震災で大停電が起きたとき、被災地の夜空には満天の星が輝いていました。変わり果てた街で、被災した人たちはどのような思いで星空を見上げたのでしょうか。震災の記憶を伝えるプラネタリウム番組を制作した仙台市天文台に聞きました。 【画像】大停電が起きた3.11の夜空にはこんなにも星が輝いていた
資金を募り、2作目制作
全国のプラネタリウム施設などで毎年3月ごろに投影される番組「星よりも、遠くへ」。これは、東日本大震災の被災者の経験をテーマにしたプラネタリウム番組で、仙台市天文台が2018年に制作しました。 2011年3月11日の星空を投影するとともに、不安や絶望、時には希望を抱きながら星空を見上げた7人のエピソードが紹介されている内容です。 仙台市天文台・副台長の大江宏典さんは震災後から、「被災地の天文台として震災とどのように向き合うべきか」と思いを巡らせてきたといいます。 そこで、被災者の手記をもとにしたプラネタリウム番組をつくることを考えついたそうです。大江さんは「震災の記憶や経験から得た知識のリレーをつないでいくことが、自分にできることでした」と話します。 震災から1年後の2012年3月に、被災者から寄せられた星と震災にまつわるエピソードをもとにした番組「星空とともに」を制作し、公開しました。 この作品が反響を呼び、クラウドファンディングで資金を募り、2作目となる「星よりも、遠くへ」が誕生しました。 大江さんは、「震災から時が経ち、被災地の状況や被災者の気持ちが変化するなかで、1作目では伝えきれなかった星空をめぐる経験を2作目に込めました」と話します。 1作目は「一緒にがんばっていこう」という被災者へのメッセージを込めた番組ですが、2作目は被災地だけではなく、全国へ向けた防災意識の向上も目的としている番組だといいます。
自ら被災地で取材
2作目をつくるにあたって、大江さんは自ら、津波の被害にあった石巻市や陸前高田市に足を運び、そこで出会った住民や消防士、医師らに取材をし、エピソードをまとめていきました。 倒壊した家屋の中で9日間、星を眺め、助けを待った高校生――。 津波で娘と孫を亡くし、輝く星々に2人の面影を重ねた女性――。 救助活動の途中で見上げた星空に、仕事への覚悟を感じた消防士――。 大江さんは「圧倒的な自然の猛威を目の当たりにして、ガスや電気といったライフラインもなくなりました。自分は自然の一部で、なんて無力なんだろう、ちっぽけなんだろうと感じました」と話します。 「異常だと思える災害も、自然界では常に起こりえることです。『私たちは自然の中で生きている』ということを改めて考えてもらいたいと思いました。そして、番組に出てくる7人の経験を誰かに伝えてほしい。震災を自分事としてとらえてもらうことで防災意識が高まればうれしいです」 「星よりも、遠くへ」は、全国のプラネタリウム施設や博物館などで、毎年3月上旬ごろに上映されています。 仙台市天文台のサイトから、上映している施設を確認してみてください。