宇佐美はアギーレジャパンの切り札となれるか?
アルディージャ戦におけるシュートは、前出のドリブル突破から放った前半40分と、FWパトリックからの折り返しを右足でトラップして、GKが最も反応しづらい肩口を豪快に打ち抜いてネットを揺らした後半6分の2本だけだった。2ゴールを決めた7月27日のヴィッセル神戸戦も4本しか放っていない。ゴールに対する飢餓感にも似た執念はそのままで、荒削りだったシュートの精度の部分が著しく改善されていることが明確にわかる。一撃で仕留めれば相手が受けるショックも倍増する。不完全燃焼に終わったドイツでの2年間が糧になっていると、梶居強化本部長が再び目を細める。 「個の力の重要性を向こうで学んできたのでしょう。仕掛けるときには徹底して仕掛けているし、そこで自分の長所を最大限引き出そうとしている。ここだというときの決定力は本当に高いものがある。同じことをトレーニングの段階から常に実践しているので、少しずつですけど自分の感触というか、自分のものになっている手応えをつかんでいるようですね」。 バイエルンに続いて戦力外を通告されたホッフェンハイムから、昨年6月に当時J2だったガンバへの復帰を決めた理由はただひとつ。ジュニアユース時代から育ち、愛着の深いチームで誰をも納得させる数字を残し、サッカー人生で喫した最大の挫折から捲土重来を期すための羅針盤を手にするためだった。 昨シーズンのJ2では、言葉通りに後半戦の18試合に出場して19ゴールと驚異的なペースを刻んだ。個の力を含めてレベルが異なるJ1での戦いを心待ちにしていたが、2月中旬の練習中に左足を負傷。左腓骨筋腱脱臼で全治8週間の重傷と診断された。途中出場でピッチへの帰還を果たしたのは4月26日の川崎フロンターレ戦。梶居強化本部長をして「可能性はあった」と言わしめる、ワールドカップ・ブラジル大会代表入りは挑戦すらかなわず、J2降格圏ギリギリをさまようなど、ガンバも開幕から大きく出遅れた。だからこそ、宇佐美が先発に復帰して以降の8試合で7勝1敗と上昇気流に乗ったガンバの軌跡はエースの復調と密接にリンクしていると言っていい。 アルディージャ戦後に、宇佐美はチームと自分自身の相乗効果に声を弾ませている。「僕らから見ていても、いまは点を取られる気配がない。1点か2点取れれば絶対に勝てるというモチベーションを与えてくれるので、本当に守備陣には感謝しています。個人的には試合を決定づけて、チームに利益をもたらすゴールをたくさん取ってきたい。今日もまだ1、2点取れた。得点ランクをもっと上げていって、チームに勝利をもたらしてきたい」。 再開初戦となった7月19日のヴァンフォーレ甲府戦を自らの1ゴール1アシストで制した直後に、宇佐美は「この試合から次のワールドカップへの道が始まる」と自らを鼓舞するように言った。4年後のロシア大会を見すえた誓いは、アギーレ新監督就任決定を触媒としてさらに強くなった。「次に出ないと話になりませんからね」。 アギーレ新監督は11日の就任会見で、「4‐3‐3」を基本システムとして挙げた。宇佐美が照準を定めるのは3トップの左か。ドイツで味わわされた屈辱と、サッカー人生で負った初めての大けが。2つの苦い経験を成長へのバネに変えて、ガンバが生んだ「最高傑作」は再び眩い輝きを放ちつつある。 (文責・藤江直人/スポーツライター)