宇佐美はアギーレジャパンの切り札となれるか?
ブンデスリーガの強豪バイエルン・ミュンヘンに移籍しながらリーグ戦でわずか3試合の出場に終わり、事実上の戦力外通告を受けた2011‐12年シーズン。チームメイトであるオランダ代表FWアリエン・ロッベン、フランス代表フランク・リベリーが独特の間合いから繰り出すドリブルを日常的に目の当たりにした。しかし、自らを進化させるヒントを得ても、実戦の場でトライできなければ武器に昇華させることはできない。悶々とした日々といま現在との違いを、宇佐美はこう説明する。「もっと成長したい、目の前の状況を無駄にしちゃいけないという思いはありましたけど、それらをフィードバックするというか、自分自身で証明する場もなかった。その意味では毎週末に試合が組まれていて、スタートから出られるのは僕にとってすごくいい状況だと思いますし、だからこそもっと、もっと成長しなきゃいけない気持ちにもさせられます」。 2つ目の武器であるフィニッシュの精度の高さも、バイエルン時代の経験が生かされている。ワールドカップ・ブラジル大会を制したドイツ代表の原動力となり、年齢も2つしか離れていない24歳のMFトニ・クロース(現レアル・マドリード)のプレーは、いまも宇佐美の脳裏から焼き付いて離れないという。「彼から教わったものはものすごく多い。たとえば一発で決めるミドルシュート。普通の選手だったら決められないところを一発で決めて、チームを楽にするシュートの精度の高さは当時から本当にずば抜けていました。僕自身もそういうプレーを増やしていかなければと、彼を見ていて思いました。トーマス・ミュラーの動き出しもそうですし、いろいろな選手のいい部分を見せつけられ続けましたけど、それを自分にとってのプラスにして、多少は還元できているのかなと思いますね」。 今年で言えば、敵地でアーセナルと対峙した2月19日のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦で均衡を破るミドルを突き刺したのもクロースなら、7対1の大勝で世界中を驚かせたワールドカップ準決勝で開催国ブラジルの戦意を喪失させる2発を見舞ったのもクロースだった。 時間は流れ、お互いに所属チームは変わっても、宇佐美はワールドカップのベストイレブンにも輝いたかつてのチームメイトの背中を追い続けている。それは試合中に放つシュート数に顕著に表れている。ガンバでレギュラーに定着し、新人王に当たる「ベストヤングプレーヤー賞」を獲得した2010年。宇佐美は日本人では最多、外国人を含めれば6位となる83本のシュートを放っている。出場時間が2000分に満たなかったことを考えれば突出した数字だったが、当時の宇佐美は自嘲気味にこう話している。「シュート数の割に得点が7と少ないんですよね。フィニッシュに対しては貪欲に取り組んだ1年でしたけど、ただ単に蹴っていた場面もあったかもしれないし、もっと落ち着いていれば倍の得点になったんじゃないかとも思っている。そこは自分の課題ですね」。