「四季・ユートピアノ」…演出家・映画監督の佐々木昭一郎さん死去、人間の「最大の美徳」追いかけた人
「四季・ユートピアノ」(1980年)、「川の流れはバイオリンの音」(81年)など傑出したテレビドラマで国際的にも高く評価され、映画「ミンヨン 倍音の法則」(2014年)でも注目を集めた演出家、映画監督の佐々木昭一郎さんが6月14日、肺炎のため死去した。88歳だった。
佐々木さんは、1960年にNHKに入り、ラジオドラマの演出を経て、テレビドラマを手がけるようになった。
その作品世界は唯一無二。ラジオドラマ時代から、職業俳優ではない「実生活者」を起用し、現実的な物語状況と拮抗させながら、人の本質、本来持っているはずの柔らかな心の動き、夢や記憶をあふれださせ、映像や音でとらえていった。既成の概念を超えて心に深く響く作品をつくり続けた。
初の映像演出作品は、母親のイメージを求めて神戸の港をさまよう少年を描いた「マザー」(1969・71年)で、モンテカルロ国際テレビ祭で最高賞を受賞。以降、次々と傑作を手がけていく。15歳の少年の自己形成を描くロードムービー「さすらい」(71年、芸術祭テレビドラマ部門大賞)、つげ義春原作の「紅い花」(76年、芸術祭テレビドラマ部門大賞など)……。
その作品世界は、過酷な現実を生きる少年少女の物語「夢の島少女」(74年)に出演した中尾幸世さんとの出会いでさらに深化。彼女をヒロインに、ある若い女性の音の日記とも言うべき「四季・ユートピアノ」(イタリア賞国際コンクールグランプリなど)や、「川の流れはバイオリンの音」(芸術祭テレビドラマ部門大賞)に始まる連作「川(リバーズ)」が生まれていった。その後も数々の作品を手がけ、96年にNHKを退職。2014年に初の映画作品「ミンヨン 倍音の法則」を発表した。
佐々木作品の特性は、「ドキュメンタリー的な即興性」「詩的な映像感覚」といった言葉で説明されることが多いが、もちろん、それだけでは語りつくせないものがある。また、登場人物の内なる記憶や夢を、時系列ではなく、その人物の心の動きに寄りそうように去来させる構成を「難解」だと決めつける人もいたが、佐々木作品は難解どころか、徹底的に素直で純粋だ。もちろん、よくある「わかりやすい」映像作品とはまったく違う。けれども、音楽や人との出会いが呼び水となって、思いがけない記憶や感情が飛び出してくるのが、人間の本来ではないか。