“逃げ出したいほど苦しい”制作の先にあるもの。『海に眠るダイヤモンド』音楽・佐藤直紀氏の心の内
と、偶然のエピソードも飛び出した。 ■音楽は“唯一のフィクション”…視聴者の感情にそっと寄り添う劇伴 劇中の音楽は視聴者に作品を強く印象付ける。作品のCMはもちろん、別番組で劇伴が流れると、「あ!これはあのドラマの曲だ」とつい反応する人も多いのではないだろうか。佐藤氏はそんな劇伴の立ち位置についてこう語る。 「ドラマの中で、唯一の本当のフィクションって実は音楽なんです。作品自体はフィクションですが、俳優がしゃべるセリフは“存在”していますし、海があれば波の音など、映像に映る実在するものの音が入っています。そんな中、唯一そこに“存在”しないものが音楽。だからこそ、劇伴が視聴者の感情の動きに寄り添い、そっと思いを肯定する重要な役割になっているのかもしれません」 と、劇伴が担うものに思いを巡らせる。 それだけ視聴者の感情を左右する力を持つ劇伴だからこそ、佐藤氏は「僕は音楽でそのシーンの感情や状況を決めつけることをしたくない」とも。 「だからこそ、どんな曲でもその裏にある感情を炙り出せるようにしています。常に楽しいだけ、怖いだけじゃない。楽しい感情の中に切なさがあったり、悲劇的な曲の中にもどこか希望を感じられたり、裏の感情を隠し入れることで、音に深みが出る。それが映像と合わさることで、人間の多面的な感情を匂わせることができるんです。正直皆さんにどれだけ伝わっているかわかりません。ただ、作り手として、物語の上辺をひたすらなぞるような耳障りが良いだけの音楽にならないようこだわっています」 と、楽曲に仕込むエッセンスについても言及した。 ■完成映像を見ずに楽曲を納品。選曲担当との連携が生むドラマ音楽の奥深さ これまで数々の映画音楽も担当してきた佐藤氏。映画音楽では佐藤氏ら作曲家が撮影や映像を見ながら監督と相談し、どこのシーンでどんな音楽をかけるかを細かく決めるそうだが、ドラマでは作曲家は完成映像を見る前に全ての楽曲を納品し、「選曲」という担当者がどの楽曲をどの場面で使うのかを決める。