エンロン、ワールドコム、東芝…名門企業が、なぜ粉飾決算、巨額不正会計に手を染めるのか
三菱自動車やスズキの燃費不正、エンロン、ワールドコム、東芝の不正会計、ジェネリック医薬品の生産拡大によって生じた製薬業界の品質不正、冤罪の被害を受けた大川原化工機事件に象徴される軍事転用不正etc. 【図表で解説】組織不正が起きるカラクリ… 組織不正は、なぜあとを絶たないのか――。 組織不正がひとたび発覚すれば、企業の株価や評判は下がり、時には多くの罰金を払う必要が生じる。最悪の場合、倒産の可能性さえある。にもかかわらず、それでも組織不正に手を染めてしまうのはなぜか。 組織不祥事や組織不正の研究を続けている立命館大学経営学部准教授・中原翔氏が、組織をめぐる「正しさ」に着目した一冊、『組織不正はいつも正しい』から一部を抜粋してお届けする。
不正会計とは何か
不正会計とはどのような問題なのでしょうか。少しおさらいをしておきましょう。 とりわけ二〇〇〇年代に入ってから、国内外において不正な会計処理が目立つようになりました。有名なものとしては、二〇〇一年一二月のエンロン事件です。当時エンロンは、世界最大手のエネルギー供給会社でした。そのエンロンが、大規模事業において次々と失敗を繰り返し、その損失を粉飾決算によって隠ぺいしていたのです。 このエンロン事件をきっかけとして、わずか半年後の二〇〇二年七月には、ワールドコム事件が生じました。ワールドコムも粉飾決算を行っており、最終的には負債総額が約四〇〇億ドル(約五兆円)規模で経営破綻するという類を見ない巨額不正会計事件が起きたのです。 このような余波は、日本にも波及しました。とりわけ二〇〇四年から二〇一三年までの一〇年間の不正会計について研究している論文によれば(*1)、件数(概観)で二〇八件、年平均で二〇件程度の事件が発生したことが明らかになっています。一連の事件を有名企業だけに限ってまとめると、表のようにまとめられます(*2)。
東芝の不正会計問題とは何か
それでは、東芝の不正会計問題とはどのような問題であったのでしょうか。 ここでは、不正会計問題の概要を押さえるために、詳細な調査報告書や文献を手がかりにしたいと思います。なお、ここではあくまで概要をつかむことを目的としているため、細かな情報は適宜省略し、大枠をとらえるように説明していきます。 もともと、東芝の不正会計問題は、東芝において利益の水増しが行われているという内部告発が証券取引等監視委員会に届いたことに始まりました。この監視委員会から指摘を受けた東芝では、二〇一五年四月に特別調査委員会を設置し、本当に内部告発で言われている通りのことが起きているのかどうかを調査するに至ったのです(*3)。 この時、疑いをもたれていたのは、工事進行基準と呼ばれるものでした。工事を行う上での原価などを計算する方法には、主に工事完成基準と工事進行基準があります。 前者は工事が完成した時に原価などを計算するものであるのに対して、後者は工事が進行している時々で計算するものになります。前者では工事が完成しなければ計算できないものであるのに対して、後者は工事が完成していなくとも計算できる点に大きな違いがあります。東芝では、この後者についての不適切な会計処理について疑いがあったのです。 その後、この他にも不適切な会計処理が行われていないかどうかを調べるために、東芝は特別調査委員会において社内調査を行いました。その時点で、複数の問題がありうるということが分かっています。そのため、東芝は五月八日に第三者委員会を設置し、より詳しい調査を依頼したのです(*4)。この第三者委員会が主に調査を行ったものとしては、次の四点になります。 (1)工事進行基準に関わる会計処理 (2)映像事業における経費計上に関わる会計処理 (3)半導体事業における在庫評価に関わる会計処理 (4)パソコン事業における部品取引等に関わる会計処理 ここでは簡単にそれぞれどのような問題であったのかを見ていきたいと思います。