<私の恩人>「南キャン」しずちゃん、武田鉄矢さんに勉強させてもらった
あとね、毎回収録前のリハーサルで、武田さんはとにかくよくしゃべるんです。普段から本を読みまくっているので、その時その時で、いろいろなものにハマってらっしゃるんですよね。ある時は、“重たいものを簡単に動かす”ということにハマってらっしゃったんですけど、その日はうれしそうにこっちに来て「ちょっと横になって」と、セットの横の方に私を寝かして、指一本で私の体を持ち上げたんです。本番の直前やったんで、細かいことはあんまり覚えてないんですけど(笑)、私の膝の裏を指で持ち上げて、体全体を浮かせるみたいなことやると、これが、びっくりするくらい動かない。こっちとしたら、本番前にいきなり練習台にされて、しかも、全然動かなくて「いったい、これは、何やったんや…」という思いを持ったまま本番に突入していったんですけど、そういう、かわいらしさもあるというか(苦笑)。そんな部分とすごい俳優さんの部分と、両方見せていただきながら、ご一緒させてもらったこともあって、すごく素敵な現場でした。 ふと、武田さんが言っていただいた言葉で、本当に大きかったなと思うのがありまして。「しずちゃんを見てたら、渥美清さんを思い出したよ」と言ってくださったんです。正直、それまでは「男はつらいよ」シリーズもほとんど見たことがなかったですし、渥美清さんのことはほぼ知らなかったんですけど、すごい人の名前を挙げてもらってるということは分かるじゃないですか。 その言葉をきっかけに「男はつらいよ」を見だしたら、お芝居のお仕事もやらせてもらってからのことだからか、渥美さんのすごさみたいなことを余計、感じるんです。何というか、漫画のキャラクターというか、くっきり、はっきり、確立されているというか、出来上がっているというか。何をどうしようが、おもしろい。とんでもない人の名前を自分と重ねていただいたんだなと、渥美さんの作品を見てから思いました。 ……あの、これ、実は、今、初めて言いました。武田さんに、自分と渥美さんを重ねていただいたことを。とてもじゃないですけど、恥ずかしいというか、おこがましいというか、人前で、この話を言うことを避けてきたんですけど、武田さんに言っていただいて、一番印象に残っている、うれしいのは、この言葉でしたし、言ってしまいましたけど…。もちろん、今はそんな力は絶対にないし、何十年かかるか分からないですけど、将来的に、武田さんが指し示してくださった方向に、少しでも近づけたらなと思っています。