西日本新聞　社説

　65歳以上の4人に1人が仕事をする時代になった。人手不足も相まって、高齢の就業者は今後ますます増える。 　年を取って働くかどうかは個人の意思次第だ。生活事情や健康状態にもよるだろう。多様な働き方、生き方を支え合う仕組みが必要だ。 　2023年の65歳以上の就業者は過去最多の914万人で、65～69歳に限れば2人に1人となっている。 　平均寿命が延び、元気な高齢者が増えたのは確かだ。当事者の実感にも表れている。 　21年度の国の調査では、65～69歳の3分の2が「自分は高齢者と感じない」と答えている。70～74歳は「高齢者と感じる」「感じていない」の割合がほぼ同じだった。 　今や年齢だけで一律に高齢者とは呼ぶことはできない。支える側か、支えられる側かも区別しにくい。 　働きたい人は年齢に関係なく能力が発揮でき、働きがいを感じられる環境をつくっていきたい。 　今年9月に6年ぶりに改定された政府の高齢社会対策大綱も「年齢に関わりなく、希望に応じて活躍し続けられる経済社会の構築」を目標に掲げた。加齢に伴う身体、認知機能の変化に応じた施策を展開するという。 　具体的には、高齢になるほど発生率が高い労働災害の防止策強化や、新規就業に向けたリスキリング（学び直し）などを挙げる。 　制度の見直しが必要なのは在職老齢年金だ。賃金収入と厚生年金の合計額が基準額の月50万円を超えると、年金支給額が減額される。 　現行のままでは、高齢者の働く意欲を奪いかねない。基準額の引き上げは検討に値する。現役世代の負担にも考慮する必要がある。 　雇用者は高齢者を安価な労働力と捉えず、技能や働きぶりに見合った賃金を柔軟に設定してもらいたい。 　5月の政府の経済財政諮問会議では、経団連会長ら民間有識者が高齢者の定義を5歳引き上げる検討を求めた。 　高齢者の年齢に明確な定義はない。社会保障では公的年金の受給開始年齢で、医療制度では前期高齢者となる65歳が一般的だ。 　民間有識者の提起は労働力不足への対応として、高齢者の働く環境を整備する狙いがあるとみられる。 　一方、こうした議論は社会保障費削減に結び付くのではないかと懸念されている。 　人口減や高齢化で支える側が減り、医療や介護の給付水準を維持するのは財政的に困難になっている。 　とはいえ、歳出削減ありきの議論では当事者の理解は得られない。働く高齢者が増えているのは「年金受給額が少ないので働かざるを得ない」という事情が大きい。 　社会保障は国民生活の安心を下支えするものだ。高齢になっても、さまざまな生活事情を包摂する制度でなくてはならない。