トランプ関税は「脅し」なのか? メキシコ25%関税発動でトヨタ・日産・ホンダに迫るサプライチェーン危機、日本企業が警戒すべき戦略的リスクとは
トランプ流関税戦略の実態
日本企業は、トランプ関税の「もうひとつの側面」にも注意を払う必要がある。ひとつは実際に発動される関税そのもので、もうひとつは 「脅しとしての関税」 だ。トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、同盟国や貿易相手国から最大限の利益や譲歩を引き出すことを目的としている。そのため、他国の負担による影響を最小限に抑え、米国の経済的繁栄と安全・平和を維持し、それをさらに発展させようとしている。 トランプ氏が主に使用する手段は関税だ。1期目の政権では、米中貿易赤字を是正するため、安価な中国製品から米国企業を守るための武器として関税を導入した。しかし、関税は中国に対して譲歩や妥協を引き出す目的もあったと考えられる。 例えば、トランプ氏は以前、メキシコから輸入される自動車に200%の関税を課す意向を示したが、これはメキシコで自動車を生産し、それを米国に輸出する中国の自動車メーカーを意識したもので、高関税をちらつかせて中国を 「政治的に牽制する狙い」 があったと見られる。また、中国が台湾に侵攻すれば、最大200%の関税を掛けると示唆したことも、その一環だろう。
トランプ関税の実現可能性と影響
トランプ氏の関税政策は、米国と対立する国々だけを対象にしているわけではない。 例えば、トランプ氏はNATO加盟国や日本などの同盟国が、GDP比で防衛費を3%に満たしていないことに強い不満を抱いており、米国がその分を肩代わりしているとしている。このため、同盟国を安全保障の 「フリーライダー」 と見なしている。今後、トランプ氏は防衛や安全保障に関する議論のなかで、同盟国に防衛費の増額を要求する可能性が高い。その際、脅しの手段として高関税を示唆するなどし、譲歩を引き出そうとすることが予想される。同盟国との首脳会談前に、関税をちらつかせて防衛費の増額を実行させる戦略を練っているかもしれない。 企業目線で見ると、脅しのトランプ関税の実現可能性はそれほど高くないということになる。これまでにトランプ氏は、中国製品に60%の関税、メキシコからの輸入車に200%の関税を示唆してきたが、現時点ではこれらの数字はあくまで脅しに過ぎない。 トランプ関税は単なる関税であるだけでなく、諸外国から譲歩や利益を引き出すための手段でもあるため、企業関係者はトランプ氏が示唆した関税率をそのまま受け入れるのではなく、その背後にある政治や安全保障の意図を理解し、冷静に実現可能性を判断することが重要だ。
和田大樹(外交・安全保障研究者)