開業以来、最高月収を更新。大きな声ではいえない「コロナ禍で開業医がめちゃくちゃ儲かった理由」勤務医はただただ疲弊だったのに
コロナで患者万来!?
開業医は、出来高払いなので患者を診れば診るほど収入が上がる。一方、大学病院や一般病院の勤務医は、働いても働かなくても給料は同じだ。 コロナ第7波で2022年の8月は、医療制度は崩壊寸前だった。最前線で発熱外来を行っている医者からは悲鳴が上がった。患者家族は片っ端から発熱外来に電話を入れてみたものの、そもそも電話がつながらず、つながっても予約枠は一杯だと断られる状況だった。 非常に不謹慎な言い方かもしれないが、開業医の収益は大幅に上がったはずである。ぼくのクリニックは、発熱外来にたどり着けない患者が殺到したために、やはり患者数が大幅に増えた。 例年8月は感冒などの感染症が激減するために、収益が大きく落ち込むのだが、2022年8月は、8月として開業以来過去最高の収入になった。これがいいのか、悪いのか、なんと書いていいか分からない。 個人事業主は経営のことも考えなくてはならないが、世間に行き場のない患者が溢れるのは、医者としてつらかった。 一方で、発熱外来をやっていた勤務医はとことん疲弊するだけだったと思う。患者で溢れかえる外来と入院病棟で体力の限界まで働き、その結果、何の見返りもないというのは、あまりにも理不尽な感じがする。 勤務医にも働きの量に応じたインセンティブを与えてもいいのではないか。
独立独歩か、寄らば大樹か
医師が辿っていく人生にはいくつもの道がある。大学の医局に所属していると、将棋の駒のように扱われることもないわけではないが、最終的には自分の意志が自分の進路を決める。 収入の多寡だけで、生き方を決める人はあまりいないのではないか。最終的にはやはり生き甲斐を何に求めるかによってその人の人生が決まるのだから、開業医と勤務医の収入を比べることに、ぼくはあまり多くの意味を見出すことはできない。 独立独歩で生きたい人は開業医になればいい。自己責任である。寄らば大樹の陰で、安定と堅実を好み、そして難しい病気にも挑戦したいならば勤務医の方がいいということになる。 確かに贅沢な生活をしている開業医もいるようだ。しかしぼくは開業医になって収入が増えたものの、ライフスタイルは何も変わっていない。100均も利用するし、カードに貯まったポイントも精いっぱい活用している。スーパーで食材を買うときも、値引きされたものに手が伸びる。 月並みな言い方になるが、お金だけが人生じゃないし、天国までお金は持っていけない。ただ、老後の不安はちょっと解消されたかな。この国に住んでいると老後はちょっと不安だから、それはよかった。 あのまま大学で働き続けていたら、経済的にかなり苦しかったろう。大学病院は労働に見合った賃金とか、ワークライフバランスとか、まだ一向に改善されていない。2024年4月から開始される「医師の働き方改革」が本当に実効性があるものになるかはまだ見通せない。 自分の受け持ち患者が病棟に入院しているのに、週に1回アルバイトに出かけるって、ちょっと異常だと思う。 写真/shutterstock ---------- 松永 正訓(まつなが ただし) 1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』で第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『呼吸器の子』『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと 』『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』などがある。 ----------