第93回選抜高校野球 中京大中京、惜敗 九回1点差、粘り及ばず /愛知
<センバツ高校野球> よくやった――。第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)準々決勝の3月31日、中京大中京は、明豊(大分)に4―5で惜敗した。最後まで諦めず、九回裏に1点差まで詰め寄る果敢な戦いぶりに、アルプス席の応援団から大きな拍手が送られた。昨年選出されながら新型コロナウイルスによる大会中止に見舞われた先輩たちの思いを背負い、ベスト4まで上り詰めた選手たち。55年ぶりの日本一にあと一歩届かなかったものの、夢舞台で自分たちの力を存分に発揮し、輝いた。【酒井志帆、隈元悠太】 2点差で迎えた九回裏、中京大中京最後の攻撃。「頑張れ」。手を合わせ、祈る姿もあるアルプス席の応援団から小さな声が漏れた。加藤優翔(3年)が渾身(こんしん)の二塁打を放ち、これを機に、1点を追加。1点差に迫った。そろいの青色のメガホンが大きく揺れ、歓喜に沸き立つアルプス席。だが相手の厚い守りに阻まれ、あと一歩のところで涙をのんだ。 この日、先発したのは左腕の柴田青(同)。これまで全3試合で計379球を投げ、球数制限(1週間500球以内)があるエース畔柳亨丞(3年)に代わり、この日朝に監督から先発を告げられた。試合開始前、アルプス席では野球部応援団長の青山彪輔さん(同)が「少しでも青の力になれるよう応援しよう」と応援団に呼びかけた。三回まで零点に抑える力投をみせた。だが、四回、一挙に5点を奪われる。畔柳は四回途中から登板、挽回をねらう。 続く五回、杉浦泰文(同)の適時打で1点を返し、六回にも加藤優翔(同)の適時打で2点差とした。加藤の母紀代子さん(48)は「頑張ってあと2点取り返してほしい」祈るような表情。 しかし、畔柳は「右ひじに力が入らなくなった」といい、七回から大江嶺(2年)が継投。大江は冷静な投球で最終回まで追加点を許さなかった。 昨年の大会中止に見舞われた前チームの久野秀学さん(18)は「自分たちの世代の分まで活躍してくれた」と後輩の奮闘をたたえた。前チームマネジャーの加藤砂羅さん(18)も選手らに呼びかけるように言った。「チームの成長が心からうれしい。また夏に甲子園に戻って、そして優勝してくれたらと思います」 ◇「覇」に願い込め ○…中京大中京のアルプス席から、ひときわ大きな打音で、躍動する選手たちと応援席を活気づける大太鼓。打面には「覇」の一文字が書かれている=写真・隈元悠太撮影。例年、夏の県大会前に、その年の願いや誓いを込めて選ばれる一字で、その都度打面を張り替える。だが、昨年はコロナ禍で試合ができなかったため面は2年前のままで、先輩たちの思いと共に引き継いだ。演奏するのは野球部の三木勇輝さん(3年)と青井琳彗さん(同)の2人。大会の1週間ほど前から練習を始めた。三木さんは「音楽は苦手」と苦笑しながらも、「選手たちを少しでも勢いに乗せたい」と汗を散らして太鼓をたたいた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇次は最強の1番打者に 細江泰斗遊撃手(3年) 「無安打の焦りから相手投手ではなく、自分と戦っていた」。昨秋公式戦は5割2分2厘と、チーム一の高打率を誇るリードオフマンの大舞台での苦悩。2試合連続で無安打に終わった日の夜、父一樹さん(38)がテレビ電話をつなぐと、細江はベッドに横たわり手で顔を覆っていた。「どうしたら打てるかな?」。父にこう問いかけた。 野球を始めたきっかけは、会社の草野球チームでプレーする父の姿を見てからだ。打てない時は、いつも一樹さんに教えを請うた。「父の指示通りにやれば次の打席からすぐに結果が出る」。電話をした翌日の準々決勝、崩れていたフォームを指示通り修正し、甲子園初安打となる三塁打を放った。 この日の準決勝では見せ場は作れなかった。「なぜ球が当たらないのか」と初の壁にぶつかっている。だが試合後「もっと成長し最強の1番打者として、必ず夏の甲子園に戻りたい」と力強く話した。 「お父さんありがとう」。父のもとには、初安打となった試合後、細江からきたメールが残されている。【酒井志帆】 ……………………………………………………………………………………………………… ▽準決勝 明豊 000500000=5 中京大中京 000012001=4