上空からゴミや糞尿が…北朝鮮「汚物風船」を日本が笑ってはいられないワケ
● 汚物風船に対し、韓国国内の反応は…… 韓国内でも「汚物風船」を巡ってさまざまな意見が出ている。「汚物風船などとはふざけている」「子どものケンカ並みの幼稚さだ」「韓国もバカにされたものだ」といった声がある一方で、「一見、バカげた行為と見せかけ、韓国世論を油断させ、さらなる挑発行為や攻撃を仕掛けてくる可能性もある。軽く見るのは危険だ」と指摘する声も出ている。 前述のように、風船の大きさ、飛来距離や、落下した場所を見れば、今回は大事に至らなかったとはいえ、不穏な事態であることは明らかだ。 さらに、北朝鮮からの脱北者たちが集まった団体が、北朝鮮に向けて30万枚のビラを飛ばすと発表したことを受け、北朝鮮は再び韓国に向けて汚物風船を飛ばすと予告し、警戒が強まっている。 一見、北朝鮮の一連の行為は幼稚でバカげた行為に思えるが、軽視はできない。仮に風船の中に有毒物質が含まれていて、不特定多数の人が集まる場所で流出すれば多大な被害が出ると予想される。実際に、複数の風船がソウルの都心部にも飛来したことを見れば、決して笑って済ませられる問題ではないことがわかる。
また、この問題は日本にとっても無関係ではない。今回の件で思い出されるのは、過去に中国のものとみられる偵察気球が日本上空に飛来した件である。2019~21年にかけて3回にわたり、気球型の飛行物体が日本の上空に出現し、鹿児島県、宮城県、青森県などで確認されたというものだ。「謎の飛行物体」としてさまざまな憶測を呼び、世論を騒がせていたことを覚えている人も多いだろう。 当時、同様の飛行物体は米国にも飛来したが、米軍は気球を撃墜、残骸を回収して分析していた。日本と米国の対応が対照的で、日本が何の対応もしないことに疑問を呈する声も上がっていた。その後防衛省は、2023年2月、この飛行物体について「中国の偵察気球と強く推定される」と断定を避けた表現で見解を述べるにとどめている。 「汚物風船」の中身が北朝鮮の現在の困窮ぶりを表していると指摘する意見もある一方で、思いのほか広い範囲に飛来している、という声もある。また、今回は韓国の出方や反応を見るための試験的なものであり、今後、さらに技術を向上させたものを韓国や日本に向けて放つ可能性も否定できない。 6月19日にはロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との蜜月関係をアピールした。一方、韓国も6月22日、米海軍の原子力空母を南部の釜山に迎え入れ、6月末には日米韓の3カ国による合同演習を予定している。今後も南北関係の動向から、目が離せない状況が続きそうだ。
田中美蘭