『#真相をお話しします』の著者が仕掛ける油断ならない本格ミステリー(レビュー)
四角い大きなバッグを背負って自転車やバイクで走り回るといえば、ご存じウーバーイーツを始めとする料理配達人。本書は、コロナ禍以来、すっかり街の風景に溶け込んでいるその料理配達人を扱った全六作から成る連作ミステリーだ。 第一話はウーバーイーツならぬビーバーイーツ配達員の大学生「僕」が東京・六本木の“店”でオーナーシェフに、京王井の頭線沿線の木造アパートで起きた火事の仔細を報告する場面から始まる。 火災現場から住人の元交際相手の焼死体が見つかっていたが、近隣住民の多くが火災現場に入っていく女を見ていた。その女は直前に「ざまあみろ」と呟いていたという……。 実はこの店、デリバリー専門で各種料理を提供するだけでなく、謎解きのオーダーも取っていた。受注した配達員は客から相談内容を聴取、聞き終えたら店へ帰って報告、場合により追加で“宿題”が出る、という具合に探偵稼業も兼ねていた。 ただし、このことを口外したら、命はないと思えといわれていたが―。 一話ごとに語り手の配達員が代わっていき、第二話では中年の妻帯者が交通事故死した男の左手から指が二本欠落していた謎を報告、第三話ではシングルマザーの配達員が空き巣に入って取り押さえられ「嵌められた」と漏らしていた男の謎を報告といった塩梅。 第四話はある女性が洋食を注文したら密封した袋からマフラーが出てきた、しかもシステムからそれは不可能なはずなのに、同一人物が一〇回連続で配達に来ていたという謎を中年男のフリーライター配達員が報告する。この辺から、超ハンサムで超クールなオーナーシェフの素性をめぐる謎についても切り込んでいく。 序盤、ただアイデアに富んだ現代版安楽椅子探偵ものだと思って読んでいると、後半は料理ものならではのホラー趣向も立ち上がってくる油断ならない本格ミステリー集である。 [レビュアー]香山二三郎(コラムニスト) かやま・ふみろう 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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