採用を増やしたい大学で首位 即戦力を生む豊橋・長岡「技科大」の育成術
「やっぱり技術科学大学(技科大)はやるなあ」。大手メーカーの採用担当者は、腕を組みながらつぶやいた。 【関連画像】NHK学生ロボコンで優勝した豊橋技科大の学生ら(写真=豊橋技科大提供) 2024年6月9日に開かれた、全国の学生たちが自作のロボットで技術を競う、学生ロボットコンテストの最高峰「NHK学生ロボコン」。担当者は、動画投稿サイトでの中継に熱視線を送った。その姿はまるで、有望な球児にバックネット裏から熱視線を送るプロ野球のスカウトのようだ。東京大学を下し、大会3連覇を飾ったのは豊橋技術科学大学(愛知県)。担当者は「みんなうちの会社に来てほしいですね」と笑みをこぼした。 技術科学大学とは、国立の工科系大学であり、豊橋技科大と長岡技科大(新潟県)の2校を指す。1976年、大学院進学に重点を置いた工学系の大学新構想として文部省(現文部科学省)が設置した。設置の主な目的は、学びを深めたい高等専門学校(高専)生の受け皿になることだ。 両校ともに4年制大学ではあるが、1年次から入学する学生は2割にとどまる。残り8割の学生は、全国の高専を卒業してから3年次に編入学する。その後、大学を卒業する学生の8~9割が同大大学院に進学する。つまり、多くの学生が中学卒業後から高専の5年間に加え、大学2年間、大学院2年間の計9年間、「研究漬け」の毎日を過ごすことになる。 リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、2025年3月卒業予定の大学・大学院生の求人倍率は1.75倍。一方、国立高等専門学校機構が23年に公開した資料によると、高専生の求人倍率は20倍超。その延長線上にある技科大は「当然、高専と同等以上の人気がある」(別のメーカー採用担当者)といい、就職活動では引く手あまただ。 日経HRと日本経済新聞社が23年に実施した「企業の人事担当者から見た大学イメージ調査」では、「採用を増やしたい大学ランキング」で豊橋技科大が1位になった。
現場を知る実務訓練
では、なぜ技科大が就職に強いのか。自身も豊橋技科大OBの若原昭浩学長代行は「製造現場を知る、実務訓練の経験が大きいのではないか」と指摘する。 大学4年次に豊橋技科大では2カ月、長岡技科大では半年にわたって、企業での実務訓練が必修となっている。例年、国内外300社近い企業から募集があり、内容は製品データの分析や開発、新規プロジェクトの立ち上げなど多岐にわたる。学生は、大学院での研究テーマや将来的な就職希望先に近い業界や企業に応募する。 受け入れ先企業の人事担当者は「一般的なインターンシップは長くても1週間ほど。学生を『お客様』として扱い、採用につなげるため会社の良い面を見せるカリキュラムを組むしかない。しかし、長期にわたる実務訓練では即戦力として通常の仕事をしてもらい、業界で働くイメージを学生に持ってもらう」と話す。 学生にとってもメリットは大きい。大学院進学前に現場を経験することで、進学後にどの分野の知識を伸ばしていく必要があるのか、課題を把握する機会になる。また、入社後のミスマッチ防止にもつながる。 就職活動でもエントリーシートに記載するガクチカ(学生時代に力を入れたこと)の大きな材料になる。国内の大手建設コンサルティング会社から内定を得た豊橋技科大大学院建築・都市システム学専攻博士前期課程2年の長内悠真さんは「業界理解を深められたことで、面接でも好印象を持たれやすいと感じた」と振り返る。