伏見稲荷前の車いすカフェで「ウィル」レンタル 新たなモビリティー
コンパクトな車体で操作しやすく、坂道もスイスイ。「ウィル」と呼ばれる新しい乗り物のレンタルサービスが京都市伏見区のカフェで始まった。どんな移動手段なのか――。 【写真】ウィルに乗って店先で品定めをする中村敦美さん=2024年9月27日午前11時11分、京都市伏見区、日比野容子撮影 外国人観光客でにぎわう伏見稲荷大社の門前にあるカフェ「SPRING(スプリング)」。店内の14席すべてが車いすだ。車いすを触ったことがない人たちにも、座って動かしてみたり、車いすを押してみたりしてほしいと、「ユニバーサルツーリズム」に取り組む中村敦美さん(57)がオープンした。 「高齢だから」「障害があるから」と旅行をあきらめるのではなく、誰もが気兼ねなく旅行できる環境を整えようというのがユニバーサルツーリズムの理念だ。「一緒に旅しているのに『私は車いすだから部屋で待っている。気にせずに』と言わずにすむ社会にしたい」と中村さん。 ■きっかけは外国人観光客の要望 この秋、レンタルを始めたのが「ウィル」。運転免許証がなくても歩道を走れる「電動車いす」の一種だが、「近距離モビリティー」と呼ぶ。 「ウィル」を開発したWHILL(ウィル)の広報マネージャーの新免那月さんは「車いすに付きまとうネガティブなイメージや心の壁を、デザイン性に優れた新しいタイプのモビリティー(乗り物)を作ることで払拭(ふっしょく)したい。そんな理念を持って、日産自動車の外装デザインに携わった人が中心となり創業した会社です」と説明する。 最大の特徴はスタイリッシュなデザインだが、外見だけではない。方向や速度の調節はコントローラー(レバー)で行い、コントローラーから手を離せば坂道でもブレーキがかかる。高さ5センチの段差も乗り越えられる。伏見稲荷大社の参道にある傾斜9度の坂道も砂利道も上り下りできる。時速は最大6キロ。 中村さんが「ウィル」をレンタルしようと思ったのは外国人観光客からの要望だ。中村さんが経営する株式会社「サポートどれみ」の旅行事業部門「バリアフリーツーリズム京都」などに、京都で長期滞在してけがをした人から「車いすを貸してほしい」と相談が多く寄せられているという。 ■伏見稲荷大社や東福寺へも カフェからは伏見稲荷大社や東福寺が近い。車いすを押す人の負担もなく、並んでおしゃべりしながら旅を満喫してほしいという。長い距離を歩くのは疲れるという人の利用も歓迎する。 「レンタルの自転車や電動キックボードと同じように、誰でも気軽にウィルの乗り心地を試してほしい」 レンタルはカフェの営業時間と同じ午前9時~午後5時。半日1500円、終日3千円。カフェを利用すれば半日500円、終日千円。問い合わせはSPRING(075・708・3344)。(日比野容子) ■ウィルは世界30カ国・地域で 「ウィル」は英語の「wheelchair(車いす)」と「will(何かをする意志)」から名づけられた。WHILLによると、米国、カナダ、ドイツ、台湾など世界30カ国・地域で利用されている。国内でも空港やテーマパーク、アウトレット、病院など約60カ所で導入が進む。近畿では関西空港(大阪府)、志摩スペイン村(三重県)、姫路城(兵庫県)、城崎温泉街(同)、アドベンチャーワールド(和歌山県)、国営平城宮跡歴史公園(奈良県)などだ。国立民族学博物館(大阪府)では文化施設として世界で初めて利用できるようになったという。(日比野容子)
朝日新聞社