才木浩人「完全アウェー」台湾戦で快投 プレミア12で積む「経験」
野球の国際大会、プレミア12で連覇を目指す日本代表「侍ジャパン」は、1次リーグB組で開幕から3連勝した。11月16日に行われた難敵、台湾戦では3-1。国際大会で初めて登板した才木浩人(阪神)が、「完全アウェー」の台北ドームで六回途中無失点の好投。上々の代表デビューを飾った。試合後は「こういう雰囲気で投げられて、いい経験をさせてもらった」と実感を込めた。(時事通信運動部 安岡朋彦) 【写真】野球プレミア12台湾戦の4回、無失点に抑えて叫ぶ才木浩人 ◆台湾一色の球場 3万4882人が詰めかけた台北ドーム。観客席は、ほぼ台湾のファンで埋めつくされていた。マイクを握った応援団長やチアリーダーが、一塁側と三塁側両方のダグアウト上にしつらえられたステージに立ち、音楽に合わせて踊りながら応援の音頭を取る。楽器は日本でもおなじみのトランペットだけでなく、トロンボーンやドラムセットまでそろっていた。 台湾の攻撃中には、相手投手が投球動作に入ってもお構いなしにスピーカーから応援団の声や音楽が大音量で流れる。スタンドのファンは、内野席にいようが外野席にいようが、声を張り上げて選手たちを鼓舞するのが台湾のスタイルだ。 才木にとって不慣れだったのは球場の雰囲気だけではない。一度も立ったことのないマウンドに上がり、日本プロ野球の統一球とはメーカーも感触も異なるプレミア12の公式球を投げる。国際大会の経験がない選手が苦しみそうな条件はそろっていた。 ◆「3ボール」から立て直す 一回。1番の陳晨威に対し、初球から3球ボールが続く。これだけでスタンドは大盛り上がり。さすがの才木も浮き足立ったのかと思いきや、ここから直球を3球続けてストライクゾーンに投げ込んで一ゴロ。3番の陳傑憲に単打を浴びたものの、4番の潘傑楷は低めへのフォークを振らせて三振に仕留めた。 二回は先頭の曽頌恩が左前打を放つと、応援団が動く。団長の音頭でスタンドのファンは一斉に立ち上がり、ここぞとばかりにマウンド上の才木に圧力を掛けるような大歓声を送る。 才木は6番の朱育賢に3ボールとカウントを悪くしたが、崩れることはなかった。一回の1番打者と同じように直球でぐいぐいと押してカウントを整え、最後は内角で見逃し三振。後続の2人も無難に打ち取った。 「逆に応援してくれてるんかな、ぐらいの感じだった。楽しんで投げました」 本人が、こう口にしたように、応援のボルテージが上がったところで力を発揮する姿が印象的だった。 ◆使用球やマウンドに適応 台湾戦から1週間前の11月9日には、バンテリンドームナゴヤで行われたチェコとの強化試合に登板した。プレミア12の試合球を使った実戦で、3回を9人で抑える完璧な投球を披露。ただし、最初のイニングはフォークをたたきつける場面が目立った。 それでも、短い登板ながらしっかりと修正を加える。最後となった9人目の打者に対しては、初球から2球続けてフォークを投げて空振りを奪っていた。慣れない使用球やマウンドに試合の中で対応する能力は、国際大会で必要不可欠な能力と言えるだろう。 チェコ戦でのフォークの修正について、才木は登板翌日、こう話した。「感覚を合わせる感じ。(試合で投げてみると)ボールの感覚がちょっと違った。リリースの感覚がちょっと滑った。試合で投げていきながら、ちょっと合わせる感じだった。きのうに関しては、うまく投げられたと思う」 台湾戦の試合後も、「最初は変化球、フォークとかが安定しなかった」。とはいえ、一回に4番に対して決め球を使って三振を奪うなど、チェコ戦と比べれば精度は上がっているように見えた。 使用球とマウンドへの対応に関し、「良かったと思う。もう、だいぶ慣れてきている。ボールの感触も、全然いい感じ。あまり気にしなくていいんじゃないか。(今後の国際大会も)その場でしっかり対応できると思う」。国際大会への適性を示した試合にもなった。 ◆井端監督は「百点」の評価 台湾戦の三回以降、五回までは味方の好守もあって無安打に抑えた。六回に四球と単打で2死一、二塁のピンチを招き、ここで2番手の鈴木昭汰(ロッテ)にマウンドを譲った。 試合中の広報を通じた談話では、「台湾の応援がすごく、最後は少し力んでしまったが、結果的にゼロで終れてよかった」と本音をのぞかせた。阪神に所属する才木にとって、「完全アウェー」は未知の体験だろう。甲子園はもちろん、阪神の場合は敵地の球場にも多くのファンが出向いて、ホームチームのファンに勝るとも劣らない声援を送るからだ。 試合後の記者会見には、才木と共に井端弘和監督も出席。「いつも(ホームの甲子園では)きょうと逆の状況で投げていると思う。初めて相手側のたくさんのお客さんの前で投げたところでは、いい経験をしたのではないかと思う。本人は6回を投げ切りたかったと言っていたが、ゼロで帰ってきたので百点の出来だった」とたたえ、「次の登板でもゼロで帰ってきてくれたらいい」と続けた。 ◆「経験」を求めて 26歳での代表デビュー。10月にメンバーが発表された際には「自分には経験がない。いい経験になればと思っている」と語った。 2026年にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が控えている。近い将来に侍ジャパンを背負う投手になることを目指し、「日本代表の名前の下で集まる経験、海外の選手との対戦も含めての経験」が大事だと考えている。 プレミア12での戦いは、今後代表でプレーする上で貴重な経験を積む機会にもなる。日本代表でもエース格となるほどの実力があるのは周知の事実。次回の登板でも、チームを勝利に導く投球を見せてくれるはずだ。