「ダーウィン以降の生物学を乗り越えたい」…21世紀最高の人類学者が「辿り着いた答え」
「内側」とは何か
後の著作『人類学とは何か』(2018年)の中に関係論的思考についての概説があります。 ---------- 関係とは、いのちある存在が一緒にやっていくことについて経験するあり方であり、実際にそうしているように、それぞれの存在をつくり上げていくあり方である。ここで重要なのは、諸関係が展開していくと、それらが結集していくような存在が絶えず【、生まれていく】ということである。人類学の用語で、関係し合う存在は「相互に構成されている」。もっと分かりやすくいうと、他者との関係が、あなたの中に入り込み、あなたをあなたという存在にする。そして同じように、関係が他者の中にも入り込むということなのだ。(『人類学とは何か』118頁) ---------- インゴルドはこのフレーズのすぐ後で、「すべての存在は、相互に働きかけ合っているというよりも、【、内側で働きかけている】のであり、存在は働きかけの内側にある」(同書、同頁)と言い換えています。 インゴルドがよく使う「内側」という言葉について、少し説明をしておきましょう。インゴルドは、20代の頃にフィールドワークで出合ったフィンランドのサーミの人たちから、物事をほんとうの意味で知る方法を教えてもらったと言います。彼は、自身の内側から自己を発見するというプロセスをつうじて、物事を知るということを学んだのです。 インゴルドはまた、世界の外側に立っているだけでは知識を獲得することはできないという科学史家カレン・バラッドの言葉を重視しています。私たちは経験や見解、技能などを持ち寄って、内側から世界を絶え間なくつくり続けているのです。私であれあなたであれ、すべての存在はつねに内側から関係論的に生成するのです。 さらに連載記事〈日本中の職場に溢れる「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた…人類学者だけが知っている「経済の本質」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野克巳