【毎日書評】世界が大きく動く「グローバルサウス」が国際秩序をどう変えるのか?
かつての帝国主義が甦ってくる
佐藤氏も指摘しているように、国際的に決まった定義はまだないものの、メディアなどでは中国はグローバルサウスに含まれていません。 佐藤 しかし、地理的な要素だけでなく、普遍主義よりもローカルな価値観、国際協調より地域大国の影響拡大、民主主義より権威主義的でいいから強力なリーダーシップといったいくつかのシフトチェンジが、含まれている。 この対話では「グローバルサウス」という概念をもっと広く考えてみたいと思っています。たとえば、トランプはアメリカにおけるグローバルサウス的なものを体現しています。(22ページより) 冷戦が終わって東西の壁が壊されたとき、「世界はひとつになった」といわれました。いわゆる「グローバル化」であり、その主人公は“グローバルノース”、すなわちアメリカを中心とした北半球の先進国。これらの国が世界をひとつのマーケットにし、グローバルな経済圏をつくったわけです。 さらには民主主義や人権というグローバルノースの価値観をものさしとして、「進んだ国」「遅れた国」という位置づけを行い、「遅れた国」には是正を迫ってきたのです。 ところがここにきて、「遅れた国」とされてきたグローバルサウスが人口的にも経済的にも世界の多数派になろうとしている。一方、アメリカやEU(欧州連合)、日本などのグローバルノースは行き詰まりを隠せない状況が訪れているということです。 池上 その方向性をもっと強烈に打ち出したのがトランプ大統領だったわけですね。たしかにそうした流れから見ると、中東で起きていることも、ウクライナでの戦争も、いろいろなことが説明できそうです。 佐藤 これまでまがりなりにも「国際秩序」を提示してきたグローバルノースに対して、グローバルサウスの特徴は「自国中心主義」です。自国のあり方、価値観、外交、安全保障に外から口出しされたくない、というわけです。(24ページより) そういう意味では、ヒト・モノ・カネの移動が自由で国境の壁が低くなる「グローバル」よりも、国家間関係を重視する「インターナショナル」の方が概念としては適切でしょう。したがって「グローバルノース対サウスインターナショナル」という図式のほうが正確ではあるものの、本書ではそれを踏まえたうえで(メディアに広く流通していることを念頭に置き)グローバルサウスということばを使って話を進めているのです。 グローバルサウスの諸国は外交的にも、ある種のリアリズムをとると佐藤氏は指摘しています。つまり「強い者が勝ち、弱い者は従え」という考え方なので、かつての帝国主義的な傾向が甦ってくるともいえるというのです。(22ページより) 以後の章では、中東情勢、アジアのバランス、ロシアとアフリカとの関係、そしてアメリカ大統領選と、話題は多角的に広がっていきます。今後の世界の動向を知っておくために、ぜひとも読んでおきたい一冊だといえます。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! 「毎日書評」をもっと読む>> 「毎日書評」をVoicyで聞く>> Source: 文春新書
印南敦史