【アーセナル分析コラム】怪我人続出は必然? 勝ち点1で十分。リバプールとの死闘で見えたポジティブな未来とは?
プレミアリーグ第9節、アーセナル対リバプールが現地時間27日に行われ、2-2のドローに終わった。この試合を含めてアーセナルは最終ラインに怪我人が続出しており、急増の4バックでの戦いを余儀なくされている。そんな苦しい戦いの末に見えたポジティブな要素とは。(文:安洋一郎) 【動画】アーセナル対リバプール ハイライト
●アーセナルとリバプールのビッグマッチは引き分けに 今季の最終順位に影響を与える可能性もあるアーセナル対リバプールのビッグマッチは、2-2のドローとなり、両軍で勝ち点「1」を分け合う結果となった。 拮抗した試合展開でありながらも、どちらかと言えば勝利に近かったのは、ホームのアーセナルだろう。9分と43分に2度のリードを奪いながらも、81分にモハメド・サラーに同点ゴールを許し、試合の流れとしては土壇場で勝ち点「2」を失ったことになる。 ただ、この結果は決して悪くはなく、勝ち点「1」の獲得は悲観する必要もないように思う。というのも、この試合の前後で、アーセナルにはあまりに「イレギュラー」なことが起きすぎており、むしろリバプールに勝ち点「3」を与えなかったことをポジティブに捉えるべきだろう。 ●「運が悪い」で片付けられない怪我人の多発 特に最終ラインの陣容は厳しく、前節に退場処分を受けたウィリアム・サリバが出場停止で不在の中、本来計算できるはずの冨安健洋とリッカルド・カラフィオーリも怪我で離脱中。この時点で陣容は難しいものがあるが、それに追い打ちをかけるように54分にガブリエウ・マガリャンイス、76分にユリエン・ティンバーが足を痛めて交代となった。 この怪我人続出の事態を「イレギュラー」と表現したが、これは「運が悪い」の一言で片付けて良い問題ではない。 アクシデント的な要素も多いとはいえ、その原因は多少なりともアーセナルにも責任があるのだ。 この怪我人続出の最大の理由は選手の「勤続疲労」だろう。昨季のアーセナルは、他のクラブと比較しても怪我による離脱者が少なく、必然的に主力選手のプレータイムが伸びる傾向にあった。 そんな中、ミケル・アルテタ監督は怪我人が出なかったことで、ターンオーバーをする余裕があった中でも主力を固定して先発起用を続けた。その結果、特定の選手への負担が大きなものになってしまっている。 ●マンCと比較してもアーセナルは選手に依存している? それを証明しているのが、公式戦52試合を戦った昨シーズンの各選手のプレータイムで、ウィリアム・サリバ、ガブリエウ・マガリャンイス、デクラン・ライス、ベン・ホワイト、マルティン・ウーデゴールの5名が4000分以上の出場時間を記録した。 プレミアリーグ4連覇を達成し、公式戦59試合を戦ったマンチェスター・シティと比較をすると、彼らの中で4000分以上の出場時間を記録したのはロドリとフィル・フォーデン、カイル・ウォーカーの3名のみ。アーセナルよりも7試合も多く戦ったペップ・グアルディオラのチームの方が、各選手のプレータイムをコントロールして分散することができている。 そもそも今季は、ユーロ(欧州選手権)やコパ・アメリカ、オリンピックなど国際大会が行われた後のシーズンであり、例年と比較をすると欧州のクラブ全体で選手の勤続疲労が目立つケースが多い。 選手への負担を大きくするFIFAやUEFAの興行に問題があるのは間違いないが、どのチームもこの状況で戦っている。昨シーズンの後半戦まで欧州大会に出場したチームに関しては、アーセナルとほぼ同じ条件で戦っており、アルテタのチームだけが「怪我人が多い」理由を「運が悪い」と片づけることは難しい。 この異常な過密日程の中で、どう選手を運用するかも指揮官に必要な手腕である。 怪我人が出てしまっている現状は厳しいが、こうした事態で重要となるのが、離脱者の代わりを担う選手たちだ。リバプール戦でみせた彼らの活躍は今後のアーセナルにおいて、指揮官の選択肢が増えるキッカケとなるかもしれない。 ●アルテタ監督の中に生まれた新たな選択肢 リバプール戦でベストなメンバーが揃った際とは異なる起用法となったのが、トーマス・パーティとベン・ホワイト、デクラン・ライスの3名だ。 彼らはこれまでの試合とは異なる役割を任された中でも合格点以上の出来をみせており、中でも本職が中盤ながら右サイドバック(SB)で起用されたトーマスはリバプール戦のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれても不思議ではないほど素晴らしいパフォーマンスだった。 トーマスがこの試合でマッチアップしたのは、開幕から絶好調のルイス・ディアスだ。そんな相手に対してアルテタ監督が、第7節サウサンプトン戦に続いて彼を右SBで先発起用したのは、デュエルでの攻防に勝つためだろう。 ベンチにはオレクサンドル・ジンチェンコが入っており、本職での起用を優先するのであれば、ウクライナ代表DFを左SBで起用し、ティンバーを右SBで起用することもできた。ただ、サラー相手にジンチェンコが後手を踏むのは予想できた事態で、それよりもトーマスの方がデュエルでの勝率が高いと踏んだと予想する。 その期待に応えるようにガーナ代表MFはルイス・ディアス相手に奮闘する。51分のように突破を許してしまったこともあったが、対人戦と判断の質が高く、本職が中盤の選手にありがちな最終ラインの上げ下げも含めて、ほぼ完ぺきな振る舞いだった。 実際にデュエルのスタッツを見ると、地上戦が16戦9勝、空中戦が5戦4勝と、対峙したルイス・ディアスの地上戦(17戦6勝)と空中戦(3戦1勝)を大きく上回っている。 怪我人続出が結果的にトーマスの右SBのテストとなり、その結果がポジティブなものだったことを踏まえると、怪我人が戻った後であってもオプションの一つになり続けるだろう。仮にガブリエウが深刻な怪我だった場合は、ホワイトとサリバがCBの一番手となり、引き続きトーマスが右SBで起用されるかもしれない。 昨シーズンは怪我の影響で、公式戦52試合で883分しか出場することができずにチームメイトへと負担をかけたトーマスが、今度は自らの力で周りを助ける出番が訪れた。 (文:安洋一郎)
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