【漫画】人の負の感情が画面中に充満ーー読者の心も擦り減る異色のホラー『他人は地獄だ』がヤバい
「ホラー」や「サスペンス」に括られる作品にも、さまざまなバリエーションがある。現実に感謝したくなる刺激的なスプラッター作品も人気だが、一方で、真綿でじわじわと首を絞められるような狂気を感じる作品を愛好する人も多い。その両面から「恐怖」を味わいたいマンガファンにお勧めしたいのが、LINEマンガのオリジナル作品『他人は地獄だ』(作:ヨンキ)だ。 真綿でじわじわ締め付けられるような恐怖……話題のサイコホラー漫画『他人は地獄だ』 2019年に韓国でドラマ化されて大ヒットを記録し、2024年11月15日には日本で実写映画版の公開が迫っている本作。印象的なタイトルの通り、スマホの画面いっぱいに人の負の感情が充満するような、恐ろしくも読むのがやめられない作品である。 ■じわじわと精神がすり減っていく恐怖 会社を設立した先輩の元で働くため、地方の小さな町から上京してきたユウ。下宿先は、部屋が狭くて壁は薄く、シャワーもトイレも共同のさびれたアパートだった。それでも、初めての一人暮らしに胸を躍らせていたユウだったが、すぐにこの下宿に漂う不穏な空気を感じることに。住人たちの奇怪な行動に翻弄され、ユウは徐々に精神をすり減らしていくーー。 特に物語の序盤では、銃を突きつけられるような直接的な恐怖というより、常に嫌なことが起こりそうな予感と重苦しい憂鬱さがユウと読者を襲う。象徴的なのは、ユウが最初に面食らったヤクザ風の住人だ。暴力のにおいがするこの男はユウにとって、ストレートに恐怖の対象だが、実はこの下宿の中では案外まともな人物だったことに気づいていく。「こんなとこに住んでるヤツらと無駄に親しくするなよ 早く出世してマシな人間と付き合え」ーーそんな言葉を残して、男は下宿から姿を消すのだ。単純な暴力とは違う、まとわりつくような恐怖がユウを蝕んでいく。 その後、大小さまざまな問題がこの下宿で起こるが、ユウはなかなかその全貌をつかむことができない。日々不快な出来事に直面しながらも、ユウにとって「決定的な事件」がなかなか起きないのも本作のポイントだ。疑心暗鬼とともにじわじわと恐怖が膨らんでいくなかで、もともと短気なところがあったユウの暴力性もあらわになっていく。おかしいのは下宿の住人たちなのか、それともユウの方なのかーーここではネタバレは控えるが、中盤から終盤にかけてジェットコースターのように恐怖が加速していく展開は“閲覧注意”でありながら、じっくり溜め込んできたストレスを一気に解放するような痛快さもある。 作画の面で特徴的なのは「1ページ1コマ」で描かれていること。近いリズムで連続的に進んでいく物語は、ときに淡々としていて、ときに予測不能だ。「スマホで読むこと」に最適化されたこの表現によって、縦読みのwebtoonとはまた違った意味で、新たな漫画体験をもたらしてくれる作品だと言えるだろう。ユウが一息つくときは一拍おいて、緊迫感のある場面では勢いよく……と、スワイプする自分の手で物語を演出していく楽しさ(恐ろしさ)も、ぜひ味わってみていただきたい。
リアルサウンドブック編集部