遊牧民は牧草地を失い、広大な土地を所有する流れ漢族が牧草を売る皮肉
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚しい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
最近は、大量に乾燥草を備蓄しなければならないようになってきた。しかし、自分たちの牧草地が限られているので、あまり家畜を持っていない遊牧民やすでに遊牧をやめて都会に生活している人たちの牧草地を借り、その草を刈ることが増えている。 外部から草を購入することも一般的になってきた。もっと草が採れる地域から大型トラックで売りにくる人たちがいるからだ。 遊牧民がどんどん牧草地を失い、家畜に食べさせる草に困っているのに、なぜか他省から流れてきた漢族が広大な牧草地を持ち、その草を遊牧民に売るという皮肉な現実が起きている。
地球温暖化の影響により、夏に雨が少なく、干ばつが続いているこの何年間は草の値段が跳ね上がり、遊牧民の経済は深刻な打撃を受けている。 多くの遊牧民は草を買う現金がなく、個人から高い利息で借金している。中国では「高利貨」といい、本来なら違法だ。しかし、家畜の売値が下がって、赤字になり、その借金が雪だるま式に膨らみ、最終的に全ての家畜や土地が貸主に取られ、自分たちが一文もなくなるケースが後を絶たない。 そして、これが大きな社会問題になりつつある。彼らは法律で自分たちの権利を守ることも知らず、一方、地方政府も黙認し、なんらかの行動をとることすらない。 今までは広い草原を自由に使い、四季によって移動しながら遊牧生活してきたが、それができなくなり、ほぼ11月から翌年の4月、長い時には6月ごろまで、家畜にこの乾燥草とトウモロコシなどを与え、越冬している。これが大きな負担になり、1年休まずに働き、家畜を育てても結局、赤字が続く家族も多いのが現状で、遊牧をやめる大きな理由の一つになっている。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第5回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。