世田谷区が区史編さんで「著作者人格権」の “不行使” を要求のなぜ…承諾を拒んだ研究者の言い分と区の思惑
強権を発動する区の思惑
それにしてもなぜ、世田谷区はここまでの強権を発動するのか。実は、区は過去に著作権をめぐり、勝手な改ざんや無断転載などで編さん側とトラブルを起こしている。その際、区が謝罪する事態にもなっており、「もはや同じ過ちを犯したくないという思いが、あらぬ方向に働いたんでしょう」(谷口氏)。
編さん委員と対話を重ねているという区だが
それでも区によれば、問題とされる契約書の作成にあたって、編さん委員のメンバーと何度もやり取りを重ね、勝手に改変をしないことも繰り返し説明したという。そうしたこともあったからだろう。編さん委員40人のうち、谷口氏を除く39人が契約を締結している。 さらに区は、過去の反省を踏まえ、自分たちは素人であり、専門家の意見を尊重するべく、そうしたことを円滑に進められるいくつかの案も考えているといい、よりよい区史づくりにいまも試行錯誤しながら取り組んでいるという。 本来は内部のやり取りのみで使う書類が外部に流出したことで、あらぬ誤解が必要以上に増幅し、区側は困惑しているが、「著作者人格権の不行使を悪しき前例にするつもりは決してありません」という関係者の声も聞こえてくる。
過去には流山市で無断書き換えトラブル
過去には、千葉県流山市が市史の原稿を執筆者の了解を得ず、無断で書き換えた事例がある。この時は、執筆者が著作者人格権を保持しており、市側が謝罪し、和解に至っている。今回は、その不行使を承諾したメンバーで区史の編さんが進められている。 すでに谷口氏の代替人員もあてがい、予定通り編さんを進めているという区。8月の締め切り予定日までに残された時間はわずかだが、この問題を黙殺したままでは予断は許さないだろう。
回答期限は3月4日だが果たして…
どこかのタイミングで完全にボタンの掛け違いがあったと思われる両者の関係。歩み寄りできるとすれば、その第一歩は、区民の会が要望する保坂区長との対話(3月7日~15日の期間で可能な日)となりそうだが、区側がどんな回答をするのだろうか…。 「”下北沢駅周辺の再開発”では対話による『熟議』により、決定事項の訂正や修正を経て大きな前進があったことが、世界的に高く評価されています。日程等の連絡は3月4日までにお願いします」と前出の稲葉氏は、保坂区長ににじり寄った。残り1週間、区は動くのか。
弁護士JP編集部