くだらないけど面白い…! 映画『聖☆おにいさん THE MOVIE』評価レビュー。最も再現度の高かった俳優は?
中村光によるギャグ漫画を原作とした映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団』が公開中。2018年に放送されたドラマ版に引き続き、福田雄一が監督を務め、染谷将太、松山ケンイチが出演する。今回は、本作の魅力をたっぷりお届け。(文・近藤仁美)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
「笑い」を届ける癒し系コメディ
本作は、世紀末を乗り越えた<神の子イエス>と<仏の悟りを開いたブッダ>が、東京・立川の風呂なしアパートで下界バカンスを楽しむという話。 原作の『聖☆おにいさん』(中村光/著、講談社)は、累計発行部数1700万部を超える大人気作である。本作の監督を務めるのは、『銀魂』(2017~)シリーズや『新解釈・三國志』(2020)で知られる奇才・福田雄一。主題歌は、ロックバンドMrs. GREEN APPLEの「ビターバカンス」だ。 結論からいえば、この作品はおそらく評価が分かれる。泣かせる筋書きやサクサク進む話を好む人にはおすすめしないが、忙しさでパンク気味、休んで笑ってリフレッシュしたい! という人には向くだろう。 作中には、堕天使“ルシファー”(藤原竜也)や、音楽・芸術を司る“弁財天”(白石麻衣)など、仏教・キリスト教に詳しくない人でもよく耳にするキャラクターが登場する。「この役をこの人が…!?」という楽しみが散りばめられており、名立たる俳優たちが本気でふざけにいく様はいっそ清々しい。
「天部」キャラクターの圧倒的な再現力
特に圧巻なのは、仏教の天部(他宗教の神が仏教に取り入れられて守護神となったもの)の面々だ。私は原作のファンなので、中村版・天部の暑苦しさや押しの強さを生身の人間がどう表現するのだろう? とひそかに楽しみにしていたのだが、いやはや想像以上、説得された側が1ミリも納得していないのに思わず頷いてしまいそうな天部が、見事地上のスクリーンに顕現していた。 また、煩悩の化身である魔神“マーラ”(窪田正孝)も再現度が高い。人を惑わすはずが不器用で独特のかわいらしさがあり、なんのかんので楽しそう。そんな、魅力たっぷりのキャラクター造形だった。 さて、前半は比較的テンポのよい笑いが続くのだが、後半は長尺のおふざけが多くなっていく。メンバーがなかなか揃わない戦隊ヒーローネタ、イエスとブッダがイエスの父(つまり神)と天界で会話する場面など、ゆるい展開にかえって脱落しそうになる人もいるかもしれない(私もちょっと危なかった)。 ただ、ここまで振り切ったゆるさを全国ロードショーで成立させるのは、至難の業だ。「この内容を、予算をつけて、このメンバーでできると思うか?」と問われたら、それを実現せしめたプロの仕事に脱帽してしまう。 実際、本作では良い意味での役者の“無駄遣い”が多数みられた。山田孝之が「走馬灯に現れる人」、ムロツヨシが「カンペを読む人」って何…!? まったく、神も仏もあったものじゃない(ありがたや)。この配役の妙には、終始驚かされた。