麻生久美子が体現する“肝っ玉母ちゃん”像 『おむすび』で担うバランサーとしての役割
朝ドラ『おむすび』(NHK総合)で意外な一面が露見しているのがヒロイン・米田結(橋本環奈)の母親・愛子(麻生久美子)だ。 【写真】エプロン姿でデンと構える愛子(麻生久美子) 地元では伝説のギャルとして語り継がれている姉・歩(仲里依紗)にいまだ縛り付けられている父・聖人(北村有起哉)と結とは裏腹に、愛子は常にデンと構えている。 少しでも結の帰宅が遅くなると、一体誰とどこの店で何バーガーを食べていたのかしつこく聞き出そうとする聖人を「デカ長」となだめたり、ついには駅で待ち伏せしてしまう聖人の過干渉ぶりを「バカ」「引く」「怖い」「度を超している」と一蹴するなど、かなり冷静で客観的に自分の夫や娘のことを静観できている愛子。自分の意見をはっきり言う気持ちの良い性格なのが伝わってきて、自身の内面に様々なことを抱え込みがちな聖人と結の似た者同士親子の間で、とても良いバランサー役を果たしている。 それでいて娘のちょっとした異変も見逃さない。書道部の入部を迷う結について「畑手伝ってくれるのは助かるけど、それで結がやりたいこと諦めるのは、お母さん寂しいよ」とそっと背中を押したり。地元のギャル集団「ハギャレン」のルーリー(みりちゃむ)からのメールを受信した途端、ソワソワと落ち着きのない結の様子を見過ごさず、そっとそのギャル文字のメール文面を盗み見て交番に駆けつけてくれたり。 心配性すぎる聖人とは対照的に、結のことを信頼し彼女の自発性に任せようとしているのがよく伝わる。この肝っ玉ぶりは伝説のギャル・歩を育て上げた母親だから成せる業なのか、はたまた愛子自身にもギャル魂が備わっているのか。夫婦喧嘩に口出ししてくる義父(松平健)にまで「待った」をかける有無を言わさぬ圧や一本気な愛子の様子には、やはりどこか総代表の風格が滲んでいるようにも思える。
『MIU404』『unknown』などにみる“バックボーン”を感じさせる芝居
愛子役を演じる麻生久美子は、意外にも本作が朝ドラ初出演。『MIU404』(TBS系)では女性初となる1機捜の隊長・桔梗ゆづる役を好演していたのが記憶に新しい。もちろん仕事のできるバリキャリながらも根性論が嫌いなリアリストで、馴れ合わないが相手のことを尊重し信頼する。その他者や部下との距離感、また自分自身への期待や信頼の寄せ方には、彼女なりの処世術、やそうならざるを得なかった苦労や見舞われた不可避だったのであろう理不尽が滲み出る。完全無欠ではない桔梗の人間臭さも彼女のそこはかとない魅力だ。 自立していて、それでいてとんでもない茶目っ気があるのは、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)で演じた唯月巴役も同じだった。唯月は奇想天外なところがありつつも、人の本質を見抜く力に長けとても愛情深かった。 『unknown』(テレビ朝日系)では、吸血鬼一家に育った主人公の母親で国民的キャスターという突拍子もない設定ながらも、なんだか甘美で余裕たっぷりの説得力のあるキャラクターを見事演じ上げていた麻生。夫の海造(吉田鋼太郎)へのツンデレ対応や夫婦の掛け合いはテンポが良く、娘の彼氏(田中圭)が抱える悩みにも軽やかに寄り添うわざとらしくない優しさも心地いい。 麻生が演じる役どころは、周囲の意見や反応にも適切な距離感をとって客観的に対峙できるようなブレない自分軸が光る。そんなバックボーンが多くを語らずとも役柄から自然と染み出すお芝居は、押し付けがましさがなくいつだってさりげない。一大事が起きても必要以上に重々しく捉えたり悲観しない、意志を持って“楽観的”でいられる強さがある。 本作でも、平穏無事に生きていくことを願っていた娘・結の世界がギャル集団や書道などとの出会いによって動き出そうとしているさまを温かく、しかし少し距離を保って見守っている。その距離感や温度感は視聴者が結を眼差す視線とも重なり、必要以上に手出ししたり助言しすぎず俯瞰で見届けようとする愛子の目線が1つの道標になっているように感じる。片や賑やかな高校生ワールドとずっと過去に縛られ続ける聖人という両極の要素が描かれる本作において、視聴者の安心感や安定感に繋がっているのかもしれない。 結がハギャレンの皆とパラパラを披露しようとしている糸島フェスティバルの実行委員に聖人が抜擢されてしまいそうで、間もなく父親にギャルたちとの交流がバレてしまいそうだ。そんな時愛子はどんなふうに結の背中を押し、聖人の心配を吹き飛ばそうとするのだろうか。
佳香(かこ)