“知らなかった”は罪なんだよ――男運がなさすぎる女性の境遇で読者の心もかき乱す『トラップホール』【書評】
彼女の不運は、そこで関わったのが妻帯者であった、という点に尽きるだろう。 隠し方が巧妙な男性も一定数存在するが、確かにある程度年齢を重ねた女性の多くは、様々な人との関係を経て、人付き合いの初期段階で相手が妻帯者か否かを見極める目を持ち始める。 ハル子も、きっとその観察眼を持ち合わせていなかったわけではない。ただしあまりにもショックな出来事があった際、人間の目や思考は簡単に曇ってしまう。そうして結果彼女は、自分の意図しないままに「妻帯者に手を出した不埒な女」へとなり下がってしまったわけである。
そんな彼女の辿った運命を第三者として見た時、「男しか縋るもののなかった、滑稽で哀れな女の末路」とばっさり切り捨てられる女性はおそらく少ない。 なぜなら彼女は読者が最も共感を傾けやすい「主人公」という存在で、彼女がここまでの恋愛において抱えた感情や境遇は、多くの女性にとって非常に心当たりのある、リアリティを帯びたものでもあるからだ。 ハル子の気持ちもわかると同時に、物語を追えば追うほど、彼女のことを反面教師にしなければ、と思わされる。それでも共感できるポイントがゼロではないが故に、彼女のことを良い、悪いという二元論で一概には語れない。そんなややこしくも興味深い主人公が、このハル子という存在なのである。
彼女の境遇を物語として追っていると、ひとつの事実の中には様々な見方があるということを否が応でも意識させられる。それもまた本作の、そしてねむようこ作品全体に共通のベースとして敷かれた、物語のリアリティさに起因する要素なのではないだろうか。 地方から都会へと一念発起して上京したものの、男関係で文字通り踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うハル子。 この先の彼女に待ち受ける運命とは、彼女は今度こそ幸せになれるのか…? 物語の展開は、ぜひあなたの目で直接確かめてみてほしい。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ