遠藤航に独サポーターが今なお抱く愛情 主将への懐疑論も…評価を劇的に変えた“伝説”の一戦【現地発コラム】
わずかなチャンスでのし上がったシュツットガルト主力の座
ドイツからイングランドへ。当時30歳の年齢でステップアップした日本代表の頼れるキャプテン遠藤航。「FOOTBALL ZONE」では、「遠藤航の解体新書」と称した特集を展開。名門リバプールで活躍する日本人への愛は、ドイツを去った後も現地ファンに深く刻み込まれている。(文=島崎英純) 【動画】「これは泣ける」「日本人として嬉しい!」 遠藤航、“劇的残留ゴール”&スーパーヒーロー級の胴上げシーン ◇ ◇ ◇ 2023年8月19日、2023-2024シーズンのドイツ・ブンデスリーガ開幕戦。ホーム・MHPアレーナでのボーフム戦を前に、シュツットガルトサポーターが手書きの横断幕を掲示した。そこにはドイツ語でこう記されていた。 「4 JAHRE KANMPF UND EINSATZ FUR UNSERE FARBEN! DOMO ARIGATO WATARU! (4年間、僕らのために全力を尽くして戦ってくれて、ドモ、アリガト、ワタル!)」 遠藤はこの試合の前日にリバプール(イングランド)への完全移籍が決まり、すでにチームを離れ、同日に行われたプレミアリーグ第2節のボーンマス戦で途中出場を果たしていた。本来ならば、シーズン開幕直前に移籍を決断する選手にはサポーターから辛辣な言葉を浴びせられるのが常だ。しかしシュツットガルトサポーターは、わずかな在籍期間にもかかわらずクラブとファンに数々の思い出と成果を残してくれた彼を快く送り出した。チームを率いるセバスティアン・ヘーネス監督も、遠藤の意思を尊重し試合前にこんなコメントを残している。 「彼は今、30歳という年齢ながらプレミアリーグのリバプールに加入するチャンスを手にした。これは彼の夢だったんだ」 一選手の夢に最大限の敬意を払ったシュツットガルトサポーターは万感と断腸の思いを抱きながら、頼もしきキャプテンの前途を祝したのだった。 2019年8月にシント=トロイデン(ベルギー)からシュツットガルトへレンタル移籍した当時の遠藤は無名の存在だった。双方のクラブ主導で交渉が進み移籍が実現した経緯もあって、現場からはなかなか信頼を得られず。加入後は公式戦9試合連続不出場(そのうち3試合でベンチ外)が続いた。 当時、遠藤と会った筆者はしかし、達観した佇まいで冷静に現状を見据えていた彼の姿を覚えている。 「まあ、焦っても仕方がないから。今は練習で自分の力を証明していくだけ。もし駄目なら、またベルギーで頑張ればいい。結局は自分の力を求めてくれるところで戦うしかないですからね」 その後、遠藤はブンデスリーガ2部第14節のカールスルーエ戦で先発出場を果たす。レギュラー選手の出場停止を受けて急遽チャンスを得たこの試合でマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を披露し一気に評価を高めると、出場停止による1試合の欠場以外は残りの公式戦に全試合フル出場して純然たる主力へのし上がった。