【柏レイソルコラム】「自分のミスで…」細谷真大が背負う責任。同僚の“愛ある苦言”、勝つ集団に脱皮するためには?
天皇杯(JFA第103回全日本サッカー選手権大会)川崎フロンターレ対柏レイソルが9日に行われた。試合は延長を含めた120分で得点が入らず、PK戦の末に川崎に軍配が上がった。あと1歩のところでタイトルに手が届かなかった柏は、2024シーズンに課題解決を持ち越すこととなった。(取材・文:元川悦子)
●J1残留を決めた柏レイソルが狙うタイトル奪取 2023シーズンのラストタイトルを巡る争いとなった12月9日の天皇杯決勝。2020年以来の王者奪回を目指す川崎フロンターレに、今季J1で残留争いを強いられた柏レイソルが挑む形だった。 柏にしてみれば、リーグ戦は3日の最終節で残留を決めるという苦しいシーズンだったが、5月の井原正巳監督体制移行後、守備の抜本的な見直しに着手してからは、試合内容が目覚ましく改善。10月29日に川崎と対峙した際も1-1で引き分けたが、シュート数含めた内容面では上回っていた。 今回は守備の要・犬飼智也、攻撃に新たなエッセンスをもたらしている山田雄士が規定により出られず、左サイドバック(SB)のジエゴが出場停止とメンバー的には厳しかったが、チーム全体が一丸となってタイトル、そしてAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権獲得に向かった。 国立競技場に6万2837人という天皇杯決勝最多観客を集める中、スタートしたこの試合。勢いよく入った柏が早速、主導権を握った。ボール支配率こそ下回ったものの、前線からのプレスとハードワークで川崎の攻撃を遮断。高い位置でボールを奪い、素早く攻める形で次々とフィニッシュに持ち込んだ。特に異彩を放ったのが、10番をつけるマテウス・サヴィオ。彼のチャンスメークと得点への意識は目を引くものがあった。 ●「そこに悔いはない」細谷真大が振り返るシーン 前半のシュート数は11対1。それだけ柏が攻め込んだが、0-0で試合を折り返すことになってしまう。ある意味、川崎もしぶとさと粘り強さを見せつけた格好だ。鬼木達監督も修正を図り、後半は劣悪なピッチ条件を加味して足元でつなぐ意識を改め、飛ばすボールを多用し始めたのだ。 これで柏は少し押される展開になったが、鋭いカウンターは健在だった。この日最大の決定機が訪れたのは、69分。川崎のFKの流れから柏が自陣ゴール前でクリア。ペナルティエリア付近にいたマテウス・サヴィオが縦に蹴り出し、エース・細谷真大が反応して山村和也と大南拓磨の間を抜け出そうとしたのだ。この瞬間、細谷は大南と接触して倒れかけたが、プレーを続行してそのままドリブルで持ち込んで、GKチョン・ソンリョンとの1対1をモノにしようとした。しかし、タッチが長くなり、シュートを打ち切れないままキャッチされてしまう。 「倒れられたらたぶんDOGSO(決定的な得点機会の阻止)だったなと。あそこはホントに助かったなと。あれは試合を大きく左右したプレーだったなと思います」と対峙した大南は試合後、安堵感をにじませていた。細谷にしてみれば「相手を退場に追い込むよりも、自分が決めるんだ」という点取り屋の本能がプレーに表れたのだろう。 「1対1になれる状態だったので、決められると思って耐えましたし、そこに悔いはない。でも自分の技術ミスでチャンスを逃してしまった。ああいうところ(抜け出した後のドリブル)が大きくなってしまうのは、ちっちゃい頃から多かったんで、プロになった今もしっかり課題として向き合わなきゃいけないし、抜け出した後にもう少し冷静になるべきだったと思いました」と細谷はむしろDOGSOのことよりも、その直後のボールコントロールミスの方を大いに悔やんでいた。 ●チームメイトの“愛ある苦言” これに関しては、0-0のまま延長に突入した99分の決定機も同様だったではないか。片山瑛一がヘッドで出した浮き球のボールに反応した細谷はジョアン・シミッチの背後を巧みに突き、ゴール前に飛び出した。しかし、頭での落としが少し前に流れて、チョン・ソンリョンが出やすい間合いになってしまったのだ。結果的にセーブされたわけだが、細かい技術や判断の狂いが生じたらチームを勝たせるゴールは奪えない。この大舞台で細谷は改めて重い事実を痛感したことだろう。 柏は終始、試合を押し気味に進めながらも120分間ゴールを割れず、PK戦に突入。自ら2本のPKを止めていた守護神・松本健太が10人目のキッカーとして登場し、失敗。川崎にタイトルを献上する結果になってしまった。 「本当に大事なタイミングで点を取り切れるか。そこは今季ずっと課題としていた部分ですし、それは今日の試合でも表れた」とキャプテン・古賀太陽が厳しい指摘をする傍らで、中盤で献身的な守備を見せていた椎橋慧也も「『真大が点を取ってれば(試合が)終わってじゃん』って思います。厳しく言っておきます(笑)」と冗談交じりにエースの奮起を促した。 こういったチームメイトの“愛ある苦言”を細谷自身も「FWとしての責任を負わなくちゃいけない」としっかり受け止めている。やはりトップレベルで活躍するFWというのは、寸分の狂いもない正確なボールコントロールから自分の間合いを作り出し、確実に点を取れる選手だ。自身がそうならなければ、柏をタイトルへと導くのはもちろんのこと、日本代表定着、主軸へと飛躍することはできない。 ●柏レイソルが勝てるチームに脱皮するために この日の細谷は3人に囲まれてもしっかりとキープして起点を作ったり、背後への鋭い飛び出しを再三見せるなど、ストロングポイントも遺憾なく発揮していただけに、冷静に決め切る部分により注力すべきだ。真の点取り屋へと変貌を遂げていくことが、彼に突き付けられた重要テーマと言える。22歳のFWにはそれだけのポテンシャルがあるのだから、悔しい経験を先に生かすしかない。 一方で、柏としては、細谷に頼りすぎない得点パターンを確立していく必要もある。椎橋と高嶺朋樹の両ボランチのプレスバック含めた堅守、マテウス・サヴィオのお膳立てと中盤までは非常に効果的な試合運びができているのに、その先の展開が乏しいという事実は否めない。細谷が複数DFにマークされる分、山田康太や小屋松知哉がフィニッシュにつなげるシーンがもっと作れてもよかったはず。他のアタッカーが前線で脅威になれれば、細谷が空くシーンも増えてくる。そういった方向に仕向けていくことが肝要だ。 今季の柏は残留争いを強いられた分、「あまり前がかりになるとリスクが高まる」といった慎重なスタンスがコーチ陣にもあり、守備のオーガナイズを整えることに比重が行ったという。だからこそ、点を取れずに引き分ける試合が多かった。そこから脱皮し、勝ち切れる集団になるためにも、細谷自身の覚醒、彼を生かしたゴールパターンの確立が強く求められる。 悔しい準優勝をどう糧にしていくのか。2024年の進化が大いに気になる。 (取材・文:元川悦子)
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