石破新政権に「安倍カラー」払拭を期待する韓国
そのため岸田氏の退陣が決まるや、訪韓に向けた準備作業が始まったが、問題は受け入れるほうの韓国側だった。 2024年4月の総選挙で、尹政権を支える与党が歴史的な惨敗を喫した後、国会は野党勢力が主導権を握り、政府・与党が受け入れがたい法案を次々に突きつけている。 日本との外交関係の改善は尹政権にとって強調したい実績の1つだが、野党側は「売国外交」と攻撃材料に使う。岸田氏が「卒業旅行」よろしく訪韓することは、さらなる批判につながりかねない。
対日外交だけではない。尹氏の妻、金建希氏をめぐる数々の疑惑を野党側は追及しており、政権は相変わらずの低い支持率に苦しむ。さらに与党「国民の力」の韓東勲代表と大統領の間も冷え込み、難しい局面が続く。 そんな周囲の不安をよそに、訪韓受け入れを押し切ったのは、今度も大統領の尹氏自身だった。 同年9月の国連総会に尹氏が出席しない意向を固めつつあったことも、岸田氏の訪韓を後押ししたが、律義に最後のあいさつを対面でしようと考えてくれたことを意気に感じ、大統領室からゴーサインを出し続けた。
■日韓で両トップの実績強調 首脳会談後、岸田氏を迎えた晩餐会で尹氏が「両国国民がいつにも増して活発に交流し、未来に向けた韓日関係の新たな歴史をともに描き続けている」と述べたのは、ほかでもなく両トップの実績を強調したいがためだろう。 先の韓国の「諮問役」は、岸田訪韓をこう評価する。「中長期的な韓国の国益としてはプラスだが、政権にとってはマイナスのほうが大きかったと言わざるをえない」。 この時点ではだれがポスト岸田を担うのかわからない中、両国関係の維持、発展に向けたしっかりとした道筋をつける意味は大きい半面、韓国内政の面ではリスクがつきまとうとの指摘だろう。
実際、尹政権に批判的なメディアは「退任控えた岸田首相の『手ぶら訪問』 国民の同意のなき外交は持続可能でない」(ハンギョレ新聞社説)などと厳しく論じた。 とにもかくにも石破政権の発足を控え、胸をなでおろす韓国政府ではあるが、歴史認識問題で悲観しないといっても、懸案がないわけではない。石破新政権に対して最も不安視するのは、日韓のメディアが伝える、今後の日米関係の行方だ。 とりわけ石破氏が訴える「アジア版NATO」には韓国でも賛否を含め、さまざまな意見が出ている。韓国外交省の幹部は「石破氏がどういう脈絡で話されているのか。アメリカとの同盟関係はどうなっていくのか。詳しく聞いてみないと何とも言い難い」と慎重な見方を示す。