「命が助かる備え」優先して 神戸で被災、フリーアナの大橋未歩さん
神戸マラソンは1995年に発生した阪神・淡路大震災からの復興と、全国から寄せられた支援への感謝を示そうと始まりました。今年は17日に開かれます。神戸市出身のフリーアナウンサー大橋未歩さんは震災を神戸で経験し、それをきっかけに防災士の資格を取りました。神戸マラソンに出場したこともある大橋さんに、ふるさと神戸への思いを語ってもらいました。 【写真】インタビューに答える大橋未歩さん=2024年9月30日午後1時8分、東京都港区、上田幸一撮影 ――5年前に神戸マラソンに出場しました。 須磨で生まれ育っているので、コースとなっている国道2号は家族とよくドライブするなど、大好きな道です。舞子の方に向かうと右側に山が見えて、左側に瀬戸内海。しばらくすると明石大橋が見えてきて、この光景がある場所で生まれ育って誇らしいなという思いでした。 練習でハーフの距離を2回走ったのですが、フルマラソンは別次元でした。30キロ、35キロを超えたあたりから足が言うことをきかず、腰も痛くなった。最後の神戸大橋を越える時が本当に苦しかったな。沿道の方々や両親の応援、神戸の美しい光景に助けられました。神戸マラソンだから走り切れたと思います。 ――神戸の街の魅力はどこにあると感じますか。 やっぱり自然ですね。18歳まで住んでいた須磨のマンションは山の方で、森が近くにありました。JR須磨駅の目の前には砂浜があり、近くの漁港ではおいしい海の幸が食べられる。電車に乗れば、10分ほどで繁華街のある三ノ宮に行ける。こんなぜいたくなところは東京にも、今住んでいるニューヨークにもありません。海外に行って、改めて神戸は世界に誇れる街だなと思います。 ――神戸は来年、震災から30年を迎えます。当時、自宅で被災されたと伺いました。 それまで地震を経験したことがほとんどありませんでした。東京にいる親戚からも「神戸は地震がなくていいね」といつも言われていました。(阪神・淡路大震災が)人生で初めて遭った地震と言ってもいいくらいです。怖くて動けなくて、部屋に助けに来た父に担ぎ出されました。あの時の皿が割れる音、マンションのコンクリートがきしむ音。しばらくは、音が本当に怖かった。 幸いなことに家族は全員無事で、祖父母も家は倒壊しましたが、無事でした。一番困ったのが水です。トイレを流さなきゃいけない。毎朝近くの川に水をくみにいって、家までバケツで運ぶことから1日が始まりました。冬だったので川の水は冷たく、バケツは指がちぎれるぐらい重かった。 ――被災した経験から思うことは何でしょうか。 地震や様々な災害の備えに、もっと優先順位をつけるべきだと感じています。被災生活に必要な物資の準備と、命を守るための備えは別のはず。物資は命が助かってこそ生きてくることなので、命が助かるための備えをもっと提案したい。 阪神・淡路大震災の死因の多くは圧死でした。だから住居の耐震化は最重要です。そしてハザードマップ。家族や身近な人と、自分たちがどんな危険性がある場所に住んでいるのかを知って、いざという時の避難場所を確認しておく。寝ている場所には大きな家具や、頭部の近くに落下物を置かない。須磨の実家でも父の部屋は頭の近くにテレビがあって、たまたま違う方向に落ちた。本当に紙一重。寝ている時には逃げようがない。「死なない寝室」を意識して欲しいです。 そして防災の一環として、子供の時から脚力をつけることを提案したいです。例えば運動会や体育の授業では、津波から逃げることを想定して、人を担ぎながら走るような種目も入れて欲しい。車で渋滞に巻き込まれたら逃げようがない。最後は足なんです。でも高齢者や障がいがある方もいる。そんな方々を担いで逃げる。それこそ、私も神戸マラソンを走ったことをきっかけに、より体を動かすようになり、以前より脚力がついて、今なら高齢の母を人と協力すれば担いで移動することもできると思います。自分や人を救うには、足で逃げることが大事。運動神経とは別で、いかに脚力をつけるかに重点を置いた体育や運動会のあり方があっていいと思います。 ――今年はパリで五輪やパラリンピックがありました。スポーツの魅力はどんなところに感じますか。 選手がプレッシャーと直面した時、どう乗り越えていくかが見どころだと思います。重圧がかかると我を忘れがちですが、厳しい局面でも自分を信じ切る姿や周囲への感謝やライバルへの称賛など、我々の想像を超えた人間の振る舞いに感動するのだろうと思います。 ニューヨークに住み始め、マイノリティーとして暮らしているからでしょうか。スポーツを国別対抗ではなく、それぞれの個人の自己表現として見たいと思うようになりました。個々の道のりと自己表現の結果であるメダルが国威発揚に利用される傾向がある。かつてアナウンサーとして五輪に携わった時、毎日メダルの数を連呼していましたが、今はもう言いたくないと思っています。 ――神戸マラソンには今年も2万人が参加予定です。ランナーへのエールをお願いします。 神戸マラソンは自然の美しさと街の活気を体中で吸収できる。こんなにぜいたくな時間はないと思います。疲れたら沿道の声を聞いて、神戸の街並みを見てください。それが次への一歩になりますから。(聞き手・渋谷正章) おおはし・みほ 1978年生まれ、神戸市出身。16歳の時、阪神・淡路大震災で被災。テレビ東京に入社し、スポーツ、バラエティー、情報番組のアナウンサーとして活躍する。2017年に退社し、フリーアナウンサーに。昨年から活動拠点をニューヨークに移した。地域の防災や災害救援のリーダーとなる防災士の資格を持つ。
朝日新聞社