「はい、論破」は独善的、対立をあおる手法にも疑問 早稲田「雄弁会」が模索するタイパ時代の「議論のあり方」
●「事実」なのか「意見」なのか
――近年は、発信する内容の良し悪しや質よりも、炎上商法のように注目を集めれば成功、という風潮がありますが、情報との向き合い方で意識していることはありますか 平栁さん「弁論大会では、弁士が提示した内容が『事実』なのか『意見』なのか、丁寧に確認が行われたうえで区別されます。そして、弁士の主張に賛同するかどうか、聴衆は判断します。そのように、事実と意見を切り分けることが大事です。 私たちは、『雄弁家をつくる』ことを目標のひとつに活動しています。ネット空間でも、意見なのか事実なのかわからない情報が多くありますが、間違ったものに引きずられず、正しい発言をできる『雄弁家』を育て、輩出していくことを目指していきます」 ――タイムパフォーマンスも重視され、情報の「まとめ」「切り取り」も広まって便利になる一方で、真実性に危うさも感じます。 平栁さん「結局、私たちの心持ちかなと思います。例えば、記者会見をすべて見る時間が無いので、切り取られた部分だけ見る。それは仕方ないと思いますが、重要なのは、全体を理解した気にならないこと。そこには切り取った方の意図がありますし、自分が知っているのはあくまで一部分だけ。そういう意識を常に持っておくことが、個人にできる対策だと思います」 佐藤さん「弁士の立場からすると、常日頃から訴えたいことを、自信を持って訴えられるようにしておく、に尽きると思います。そうすれば、発言を切り取られるのも、悪意を持ってされない限り、そんなに恐れることではないのではないでしょうか」
●酒場の酔っ払い、どう対処する?
――最後に余談ですが、酒場で論争を吹っかけてくる酔っ払いにもし遭遇したら、どう対処すると思いますか。 小林さん「政策決定の場でもないし、正しいことを必ずしも正しいと押し切る必要がないので、おそらく『そうですね』って流してしまうかなと思います」 佐藤さん「我々は論理的な説得を目指していく立場で、必死に追及しているからこそ、弁論の場だけでなく、日常からのコミュニケーションも重要だと感じています。ただ、まずは信頼関係が無いと、説得の段階にはありません。まずは信頼を築くことが、コミュニケーションのうえで重要だと、今の質問を受けて基本に立ち返りました」 平栁さん「酔っている人と具体的な論争をできるか疑問ですし、相手も本当に望んでいるかと言ったら、そんなことも無いのかなと。日常のグチを聞いてもらいたいだけかもしれないので、まずは主張に耳を傾けてみると思います。通常の議論でもそうですが、聞くことがまずは大事かなと。そのうえで、よほど議論をやりたそうであれば、やってみようかなというところですかね」