100年前のパリへといざなう展覧会 藤田嗣治・佐伯祐三・荻須高徳展 大阪・山王美術館
今夏、開館15周年を迎えた山王美術館(大阪市中央区)は、記念の展覧会「コレクションでつづる 藤田嗣治・佐伯祐三・荻須高徳展―パリを愛し、パリに魅了された画家たち―」を開いている。15年前のオープン記念展と同タイトルの展覧会で、表題となっている3人の画家の新たなコレクションを含む選りすぐりの83作品を公開。 【写真】「ヴィーナスそっくりなんや」。佐伯祐三がそう表現した妻・米子の美しい横顔 藤田嗣治(1886~1968年)、佐伯祐三(1898~1928年)、荻須高徳(1901~1986年)は、いずれも東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業し、1910~20年代にかけて渡仏。パリを中心に活動しながら独自の画風を築き上げていったという共通点がある。3人の作品は、開館時から山王美術館の主要コレクションで、15年間でさらなる充実を図ってきた。今展では、藤田31点(うち初展示9点)、佐伯24点(同4点)、荻須28点(同3点)を選び、3フロアの会場を画家ごとに分けて展示している。 大きな見どころは、“三者三様のパリ”だ。「パリを愛し、パリに魅了された」3人がそれぞれ描いた同地の風景を並べたコーナーを設けた。藤田の『パリ風景(モンパルナス風景)』(1917年)の画題は、当時、藤田が住んでいたモンパルナスの町外れで、広い道の端に、店とおぼしき花などを積んだ台車、通りを歩く人々、馬車の様子が飾り気なく描写されている。 佐伯の『パリの街角』(1925年)は、フランス滞在2年目の作品で、汚れた壁や窓、暗い影を伴いながらまっすぐにのびる歩道などの情景を荒いタッチで表現。荻須の『パリの風景』(1950~1955年)は、佐伯と同じくパリの裏町を描いているが、色あせた壁もどこか明るく、そこに暮らす人々の生活感を伝える。それぞれの作品が異なる魅力で100年前のパリへといざなう。 もう1つの目玉は、自画像。佐伯の作品は絵を本格的に学び始めた19歳ごろのもので、強い眼差しが印象的だ。自画像をほとんど描かなかった荻須の、めずらしいセルフポートレートも見ることができる。支援者で友人でもあったスイスの美術コレクターに贈られた作品で、ネクタイ姿の荻須が振り返ったような姿勢で穏やかな表情を浮かべている。 眉の上で切りそろえられた独特のヘアスタイル、丸眼鏡の藤田は、彼の自画像にたびたび登場するおなじみのルックス。本展の作品では、光沢のある白いシャツ、緑のズボンというしゃれた装いで机に向かう。肩から顔をのぞかせる猫の毛のこまやかな質感がリアルだ。 展示を担当した本田亜紀子学芸員は「日仏で広く才能を認められ、自己プロデュースにも長けていた藤田、短い生涯の中で求道者のように同じモチーフを描き続けた佐伯、建物に宿る人々の喜びや悲しみを叙情豊かに表現した荻須。パリで各々の芸術を花開かせた3人の世界観の違いや画風の変遷をじっくりと見てもらえたら」と話している。 会期は2025年1月31日(金)まで。
ラジオ関西