移籍した中村俊輔はジュビロ磐田の何を変えようとしているのか?
先制点から5分後には、再び左足が輝きを放つ。ピッチ中央で味方からパスを受けた俊輔は、右前方へ走り込んでいた太田へ、左足のアウトサイドで絶妙のパスを送る。鋭い弧を描きながら自身の前方へ伸びていくパスの軌道に、太田は強烈なメッセージを感じていた。 「足元でしっかりトラップして、前を向けという感じで。スムーズにシュートまでもって行けました」 右足から放たれた強烈な一撃はゴールバーを直撃。惜しくも得点とはならなかったが、名波浩監督をして「昨シーズンはわずか4本しかなかった」と嘆かせたスルーパスからのシュートが、磐田の新たな武器となりつつあることを物語る場面だった。 これまで右サイドからクロスをあげる仕事が多かった太田も、攻撃面で幅が広がっている手応えを感じている。「少しずつですけど、いい感じでパスをもらえるようになった。あの位置へいつも入っていけるように、常に俊さん(中村)を見ながらやっていきたい」。 後半途中からは俊輔がトップ下を離れて左サイドに下がり、川辺駿、ムサエフの3人で最終ラインの前で体を張る時間帯が続いた。俊輔の判断だったと川辺は明かす。 「(左サイドの)アダイウトンが途中から下がらなくなったので、俊さんが『3ボランチ気味にしよう』と。相手ボールを奪ってカウンターという戦い方を明確にできたので、精神的にもだいぶ楽になりました」 後半28分に1点こそ返されたものの、全員でゴールを死守してつかんだ初勝利。その中心にいた俊輔は試合終了間際にベンチへ下がるまで、チーム2位となる12.118kmを走破した。 「パスの質もそうだけど、危険と見たエリアへ帰陣する動きを含めて、いろいろな意味で戦い、チームを引っ張ってくれた。ボールに絡んでいないところでも、常に大きな声を出している。今日のパフォーマンスを見たら、俊輔が38歳とは誰も思わないよね」 自らラブコールを送って移籍を実現させた俊輔が、魅せるだけでなく泥臭く戦う姿に名波監督も目を細める。自身が現役時代に背負った日本代表の「10番」を継いだ俊輔へ、指揮官は「ひとつのプレーでガラリと変えられるのがお前だ」と檄を飛ばしてきた。もちろん俊輔も意気に感じている。 「FK以外のところでも、もっと試合を支配するような、そういうプレーが増えてくればいい。たかが1勝だけど、僕にとっては大きな一歩になった」 一挙手一投足でチームを鼓舞する精神的支柱。新たな攻撃パターンの担い手。そして、戦況を的確に見極めて戦い方を変えるピッチ上の監督として。電撃的な移籍加入から約2か月。俊輔を触媒として、磐田が外側と内側から確実に変わりつつある。 (文責・藤江直人/スポーツライター)