明日シカゴマラソンに挑戦する川内ら有力ランナーのプロ転向で日本のマラソン界はどう変わる?
マラソンなどのロードレースはIAAFがラベルを認定しており、「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の大会には、賞金だけでなく、エリート招待選手には出場料も発生する。 すべてのラベルにおいて男女各6人以上のエリート招待選手が必要で、さらに最低4つの異なる国籍の選手を招待しなければいけない。 エリート招待選手の条件は、2016年以降に基準タイム(男子はゴールド2時間9分30秒、シルバー2時間11分45秒、ブロンズ2時間13分45秒)をクリアするか、リオ五輪、ロンドン世界選手権で25位以内という実績が求められる。 出場料は大会規模、出場選手のキャリアによって異なるが、数十万から数百万円が相場。世界のトップクラスともなれば、ロンドン、ベルリンなどのメジャー大会と複数年契約を結ぶことで数千万円のお金が動くこともある。 昨年(2017年)、ブロンズの基準タイムである2時間13分45秒を突破した日本人選手は42名いた。その多くは国内レースを中心に出場しているが、スポンサーに頼らなくても、海外レースで稼ぐことが十分に可能なのだ。川内は公務員規定で出場料を受け取ることはできないものの、昨年1年間だけで12のフルマラソンに参戦しており、プロになれば出場料だけで数千万円を手にすることができるだろう。 プロになればトレーニング環境も変わってくる。川内は現在、平日の12時45分から21時15分までが勤務のため、平日は午前中のみがトレーニングの時間になる。コニカミノルタ陸上部は8時30分から14時までが勤務で、神野はスーツ姿でデータ入力などの事務作業をこなしていた。早朝と14時以降がトレーニングの時間だった。 プロになった神野は7月9日にケニアへ出発。現地で約2か月半の合宿を行い、9月のベルリンマラソンに参戦している。プロになれば、競技のために時間を存分に費やすことができるのもアドバンテージだ。 練習パートナーや指導者の問題、活動費の工面など、新たな悩みも出てくるが、プロ化が進むことで、「日本のマラソンは強くなる」と筆者は感じている。ケニアやエチオピアは貧困から抜け出すために走っている選手が多いなかで、日本の実業団は活躍できなくても給料が支払われ、遠征費や合宿費も会社が負担してくれる。 フィジカルだけでなく、メンタル面でも大きな差があった。しかし、プロは結果がすべて。競技に取り組む姿勢が変わってくる。 東京マラソンで2時間6分11秒の日本記録を樹立した設楽悠太(Honda)のように独自のスタイルで強くなった選手もいるが、実業団のトレーニングはさほど大きな違いがあるわけではない。システマチックになっているマラソン練習ではなく、新たな発想のメニューが誕生することで、常識を打ち破るようなパフォーマンスにつながると思うからだ。 さらに選手を取り巻く環境も変わってくる。選手のプロ化について、川内は、「今は実業団の選手が圧倒的に多くて、プロは少ない。実業団にもいい部分がありますし、プロ、公務員、市民ランナーがいろんなやり方で、切磋琢磨できれば、日本のマラソン界はもっと活性化すると思います。たとえば、実業団が合わなければプロになる。プロでうまくできなければ実業団に入るなど、新たな流れもできてきます。実業団は円満退社でないと、別のチームに移籍することができないので、つぶれてしまうケースもありました。プロになれば関係ありませんからね」と話していた。 昨年、プロランナーの大迫がボストンで表彰台に乗り、福岡国際で現役最速タイム(当時)をマーク。今年は2月の東京マラソンで実業団ランナーである設楽と井上大仁(MHPS)が大迫のタイムを上回り、2時間6分台を刻んだ。そして、春には公務員ランナーの川内がボストンを制覇した。日本のマラソン界に追い風が吹いているが、プロ化が進むことで、さらなる“ビッグウエーブ”がやってきそうだ。 (文責・酒井政人/スポーツライター)