初期国勢調査周知に「大大阪」の芸能人が活躍してた!?
AKB風の女性人気グループによる国勢調査コントも
それから10年後の1930年、時代は大正から昭和へ。第2回目の大規模調査時に発売された7枚セットの「国調レコード」が、貴重な史実を刻み込む。兵庫県尼崎市の特許レコード製作所で製造。レコードの芯(しん)にボール紙を使用したもので、軽くて落しても割れにくい。録音内容は多岐に富む。 「初回の国勢調査で、浪曲が啓発に効果を発揮した実績をもとに、大阪府は2回目の大規模調査の実施にあたり、浪曲師だけではなく、さまざまな分野の芸能人の協力を得て啓発活動を展開しようとした。レコード1枚目は国勢調査の主旨説明で、府知事自身が吹き込んだ。そのうえで、2枚目からはレビュー、漫才、小唄・都々逸(どどいつ)、浪花節など、多彩なジャンルの芸能による啓発作品で構成されている」(大西特別研究員) 国調レビューを演じているのは白鳥座歌舞劇団で、女性だけのレビュー団として人気を集めていた。女性団員演じる国勢調査員が立ち寄ったレストランの店員や客たちに、国勢調査の内容を教えるコント仕立ての歌謡劇だ。レコード2枚4面を使い、録音時間は約12分と長い。 「今ならAKB48などに相当する人気女性グループが、国勢調査をテーマにコントを演じるわけですから、注目度が高かったはず。国勢調査の対象となる10月1日午前零時、夜勤で留守にする場合、どう申告したらいいのかなど、きめこまかく説明している。録音時間に制限があるため少し早口になっているものの、息が合っているので十分けいこを積んだ労作だ」(大西特別研究員)
『主は我がまま 私は気まま 国勢調査は有りのまま』
漫才は横山エンタツ・花菱アチャコの名コンビが担当。随所に笑いを織り込みながら、軽快なテンポで国勢調査の勘どころを押さえていく。大西特別研究員によると、エンタツ・アチャココンビによるレコードデビュー作の可能性が高いという。 小唄「国調都々逸」を披露するのは南地力松。大阪の代表的花街のひとつ南地の芸妓で、多くのレコードを吹き込んだ人気歌手だった。都々逸の一節は次の通り。 『主(ぬし)は我がまま 私は気まま 国勢調査は有りのまま』今でも十分通用するようなユーモアとエスプリを併せ持つ。「浪曲は説明会の顧客動員に活用し、レビューで調査の内容までをしっかり説明する。それぞれの芸能の持ち味を生かした展開を工夫していたと考えられる。多様なジャンルの芸能に精通した総合プロデューサー的人材が、プロジェクトを動かしていたのかもしれない」(大西特別研究員)